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そこは、地球かそれとも…

僕はダンジョンを出てこの草原を歩いている。まっすぐ歩けば大丈夫。いずれはどこかに必ず着く。そう頭の中で何回も繰り返す。目的を見失いそうになるくらい何もない草原をひたすら歩いているけど、こんなに町とか建物が見えないなんて、日本じゃない確率が上がってきたぞ。とほほ・・・ん?あれは人影!しかも多い!

人影を見つけて、気持ちが一変した。嬉しさで走って駆け寄る。近寄ると、影の正体が見えてきた。そして、顔が笑顔のまま固まった。なんだかデジャヴを感じる。そう、そこにいたのは人ではなく、またゴブリンだった。ゴブリンはこちらに気づき、武器を手に取った。

六匹いるな、多勢を相手にできるか?でもこんなに広い場所で戦うんだから各個撃破でいけるだろう。なら早く動こう。一番先頭にいたゴブリンから倒しに行く。踏み込んで、駆ける。僕の急な接近に驚いたのか、ゴブリンは慌てていた。その隙を逃さない。右の腰に手を当て、ギフトを引き抜いた。速さをつけた攻撃がゴブリンを裂く。そのまま走り、奥のゴブリンたちも順番に斬っていく。距離を取って、ギフトを構えてゴブリンたちの方に振り返ると、六匹のゴブリンは全て地に伏せていた。


「こんなもんかな。でも、ダンジョンのゴブリンより対応力がなかったな。僕もそこまで速く動いているわけでもないし、こっちの方がモンスターにとって平穏な場所なのかな?」


そんなことを思っていると、僕はあることに気付いた。


「ここ、日本だったらモンスターがいきなり外に出てきて色々大変なんじゃないのか!?楽、無事でいてくれよ・・・」


僕一人では何もできるはずないのに、いてもたってもいられず今度は慌てて走り出した。


必死に走っているうちに、眼前の左の景色が変わっていった。青色がどんどん広がって行く。


「海だ」


思わず声に出ちゃったけど、もう一つ目に留まったのは細長い線だった。それがなんなのか気になって近づいてみると、そこには石製の建物が並んでいた。


「町だ」


また思わず声が出ちゃった。だけど、こんな石製の建物が日本にあるなんて知らないぞ。日本じゃない可能性がもっと高くなってきたな。どこかの国なのかな?それに外国だったら、日本に帰るのはかなり面倒くさくなりそうだ。お金持ってないし。とりあえず町の人に話を聞いてみよう。言語が違ったりしたら日本じゃないって分かるだろうし。


町に近づくと大きな門と町を囲うように壁が建っているのが見えた。門から町に入れそうだったから、まずは門を目指した。門には着物みたいなのを着ている衛兵らしき男の人が二人立っていた。門の前には町に入るために検査を受ける人が多く並んでいる。最後尾に並んでから時間が経ち、ようやく自分の番がやってきた。


「どんな用件でこの町に入るのか?」


日本語!でも、こんな町あったっけ?っと、答えなくちゃ。


「観光です」


そう答えたら、門番さんは僕をじっくりと見た。何かついているのかな。それとも何か疑われてる?


「そうか。しかし、何故そんなに土まみれなんだ?それに一人とは」


どう答えよう。ダンジョンで戦ってきたって言ったら、面倒くさくなりそう。旅の途中でモンスターに追われたことにしておこうかな。


「僕は今、一人旅をしているのですが、途中でモンスターに襲われまして・・・なんとか逃げてきたのです」


「それは災難だったな。だが、通行料は頂こう」


な、何だって?お金?持ってない。どうしよう。今あるものっていったら大切な剣と食べ物と・・・クロスボウ。そうか!クロスボウだ!クロスボウはウルで代用出来るだろうし、これでいけるか?


「今お金を持っていなくて、代わりにこれをとはいきませんか?」


「クロスボウか。まだ全然使えるな。これを普通に売れば通行料なんて比じゃないくらい貰えそうなんだが金がないんだったな。こんな高価なものを通行料と言う訳だけでは頂けない。少しになるがこれをお釣りと思って受け取ってくれ。それでは、観光を楽しんで」


そう言って、門番さんは小包をくれた。袋の大きさから軽いと思っていたら、受け取った時に重さに少し驚いた。以外に硬貨って重いんだな。そして町の中に入りつつ、小包の中身を確認すると、銀色のコインが10枚くらい入っていた。小包をポーチに入れて、さぁ今度は町の探索だ。どこから、行こうか?宿屋探しか、情報収集か。う〜ん、宿屋探しかな。情報も宿屋を探してるうちにあるかもしれないし。


しばらく歩き回ってもどこがいいのか分からず、しかも迷った。最悪だ~。

とりあえず大通りを歩いていると大きな建物が見えてきた。あの建物、他の建物よりも大きいし市役所みたいな所なのかな?とりあえず、あそこに行ってみよう。

玄関の扉は開いており、中に入ってみると色んな設備が整っていた。食堂や受付、映像で出来ている掲示物があったりした。映像で掲示するなんてどこか近未来的で新鮮だ。ここが何をする場所か分からないけど、一応受付で聞いてみよう。今は人が少なく、すぐに男の係員さんと話すことができた。胸にあるプレートには「佐倉」と書いてあった。


「どのようなご用件でお越しでしょうか?」


「ここで質問とかも聞いてもらえますか?」


「人生相談などは無理ですが、情報などについての質問は大丈夫ですよ」


良かった。ここで質問できるみたい。今のうちに気になってること全部聞いちゃおう。


「まず、ここって何と言う国ですか?日本だったりしますか?」


「日本と言う国は存じ上げませんが、この国はイドラン大陸東部に位置する天照王国の東水と言う町です」


僕の質問に答えながら、地図でどこにあるのか教えてくれる。日本を知らないのか。それにイドラン大陸とか、天照王国なんて聞いたことないぞ。この大陸の形も見たことないし。ダンジョンを体験して最悪な可能性の一つとして、ここが地球じゃないなんてことも考えたこともあったけど、本当に地球じゃなさそうだ。

もしかして僕、もう帰れないのかな?でも、あの紙には帰り方を教えるって書いてあったし、ってどこに行けばいいのか分かんないんだよな。

落ち込んでいると係員さんが心配したように声をかけてきた。


「こちらに何か不手際がございましたか?」


「い、いいえ。何でもありません。あっ、あの、まだ質問あるんですけど、この町でいい宿屋って知りませんか?」


「いい宿屋ですか。これは私の意見なのですが、南通りにある「海適堂」なんてどうでしょうか?ここは値段が比較的安い割に海も近いですし、料理も美味しい所です」


今度は町の地図を使って教えてくれた。値段が安いのか、それに受付の人が勧めるんだ。きっといい所なんだろう。ここで決定かな。


「ありがとうございます。ここに決めました。最後にもう一つ、ここはどのような施設なのですか?」


「この施設はギルドという施設になります。主に掲示物の管理やアイテムの交換、素材換金、質問窓口などがある施設です。こちらからもお伺いしたいのですが、何故ギルドを知らなかったのですか?どの町にも必ず一つはある施設なのですが」


「えっと、僕の故郷は田舎でして、町に出てきたのはこれが初めてなんです。あはは」


咄嗟に考えたけど、この答えで大丈夫かな?


「そうでしたか。では、この町でいい思い出が残ることを祈っています」


「色々ありがとうごさいました」


「いえいえ、お気になさらず」


ギルドを出た後、僕は安堵の息を吐いた。何か疑われなくて良かった。でも、ここは日本じゃないみたいだし、この先どうしたものか。まぁ止まる宿屋も決まったし、しばらくこの町にいよう。それにしても、ギルドってすごく便利な施設だ。そんな施設がいっぱいあるってこの世界はすごいな。色々考えながら僕は宿屋を目指して歩き出した。

言われた通りの道順で歩いていると、宿屋みたいなイラストが書いてある看板が吊るしてあって、民家ではなさそうな雰囲気の建物が建っていた。


「ここかな?」


入り口を見ると、インターホンが無かった。そのまま入ってもし普通に民家だったら申し訳ないし、ノックをした。しばらくすると、足音が聞こえてきて、見た目高校生の「舞衣」と刺繍されたエプロンを着た女の子が出てきた。


「はーい。どうされました?」


「あの、僕、海適堂という宿屋を探しているんですが、ここって、もしかして海適堂さんでしょうか」


「そうですよ。でも、お兄さん文字読めなかったんですか?入り口の上に書いてあったんですけど」


「えっ?」


見上げたら外壁に大きく『海適堂』と書かれた看板があった。だんだん顔が熱くなってきているのを感じる。恥ずかしい!僕は顔を両手で隠した。


「だ、大丈夫ですか?」


「い、いえ、ご心配なく。それよりも、今日って泊まることって出来ますか?」


震えた声で言うと、舞衣さんは少し引きつった表情で答えた。


「出来ますよ。宿泊は1日ですか?それとも何日か泊まりますか?」


この町に結構いることになりそうだから様子見で、もうちょっと取っておきたいな。


「とりあえず、5泊お願いできますか?」


「はい、5泊ですね。ありがとうございます。この紙にサインしてください。お金は後払いで銀貨5枚になります。それでは、お部屋にご案内しますね」


案内されて廊下を歩いていると、ふと時間が気になった。


「あの、時間とかって分かりますか?」


「ええっと、今は午後の四時ですね。お兄さん、時計持ってないんですか?あった方が便利ですよ」


今は四時か。時計もあった方が便利だな。情報集めのついでに明日見に行こうかな。


「ここです」


「えっ?あ、ああ、部屋ですね」


これからどうしようか考えていたら反応が遅れてしまった。部屋に入ってみるとベッドとテーブル、イス、とシンプルな造りになっていた。それに、窓からは海が見える。普通にいい部屋だった。


「それではごゆるりとお寛ぎください」


女の子はそう言って戻って行った。一人になったのを確認して、ベッドに飛び込みそうになって・・・辞めた。


「土まみれ・・・」


武器を置いて、また受付の方に戻ったら、舞衣さんがいた。本を読んでいたから話しかけづらく、話せるタイミングを伺っていると、舞衣さんが僕に気づいた。


「ん?どうしたんですか?」


「あの、お風呂とかってどこかで入れますか?」


「それなら、向かいのお店が銭湯ですよ」


「ありがとうございます」


あっ、そうだ。着替えも買ってこないと。


「すいません。もう一ついいですか?服のお店ってどこですか?」


「服のお店は向かいの銭湯の隣にありますね」


「ここ、便利ですね」


「私もこんな良い所に家が建ってるって知った時はビックリしました。お母さんとお父さんに感謝ですね」


手を縦に振って、笑って答えてくれた。


「本当にありがとうございます」


お礼を言ってすぐに服のお店に行くと基本寝る用で着るために、かと言って外に出ても大丈夫そうな普段着と海が近くにあるから入るかもしれないと思って水着も買ってから銭湯に入った。銭湯の入場料を払うと無料で服を洗濯してくれるらしい。着ていた服を預けてお風呂に入る。石鹸があったから、体を洗ってからお湯に浸かった。


「気持ちいい〜、ほんと、久しぶり入ったな。今まで臭かったかな?」


お湯の偉大さに感動したけど、今度は今までの周りの目が気になった。そんなこれまでのことを考えながら、心済むまでお湯に浸かった後、さっき買った服を着て洗濯してもらった服を取りに行く。魔法によって乾燥までされている親切っぷりだ。洗濯された服を見て、こんな色してたんだ、って思うほど綺麗になった。どうやら今まででだいぶ汚くなっていたらしい。服を受け取って宿屋に戻る。部屋に着いたなり、すぐにベッドにダイブした。柔らかい感触が全身を包んでいって・・・


まぶたを開くと、窓から明るい光が差し込んできていた。いつの間にか寝ていたのか。ベッドって恐ろしい。さて、それはそうと今日は何をしようかな。ベッドから起き上がり、窓から海を眺めて、そんな事を思っていた。

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