???ダンジョン:最終層
休憩を済ませた後、ドラゴンについて考えている。
「さて、どうやってドラゴンを倒そうか。外皮は鱗で硬いらしいし、柔らかい部位だったら…また目か。ゴブリンと戦った後に獲ってきた刃物は結構あるけど、それをやったところで勝てたりはしないかぁ。羽を狙ってもいいけど、硬いかもしれないしこれも決定打にならない気がする。後は体内。だけど食われにいっても死んじゃうだけだと思うし・・・」
ふと、ウルを見ていたらあくびをしていた。
「っ!口内ならいけるかも。それに人間だって舌を噛み切れば死んじゃうらしいし。刃物を投げて傷つけていけば出血死を狙えるかも。今の僕たちに、これ以外に有効な攻撃はないだろうし。これに賭けるか。博打もいいところだよ。でも今の僕たちならきっとできる」
立ち上がり最後の階層へと進み出す。ウルも並歩してくれている。
「ウル、今から戦う相手はさっきのゴブリンキングの比じゃないほど強いと思う。それでも奴の注意を引いて欲しい。頼めるか?」
ウルは、当たり前だろ!っとでも言うように元気に吠えた。その声を聞いて僕は最後のボス部屋への扉を押した。
僕たちが中に入ると、ドラゴンはすでにいた。けれど、今は眠っている。その隙に部屋の内部を確認したが、これといって特徴がなく、いつもと同じようなボス部屋だった。部屋の広さはドラゴンが大きいからか、いつもの二倍以上はある部屋だった。部屋を把握したところで僕たちは配置に付く。今回は僕たちの間にドラゴンを挟むようにして立った。僕がドラゴンの正面、ウルは背後だ。ドラゴンが眠りから覚めたときにまず片方の目を奪うために僕はドラゴンとできるだけ近く、それでいてすぐに攻撃がとどかないであろう距離まで詰めている。
準備が済み、ウルが大きな声で吠える。するとドラゴンはゆっくり立ち上がり、目を開けた。その瞬間、僕の放った刃物がドラゴンの左目に刺さる。やはり目は柔らかいようだ。
「ガアアアァ!!」
「さぁ、戦闘開始だ」
*
ドラゴンが右目で僕を見据えると、正面から突っ込んできた。僕はドラゴンから見て左方向に回り込んで死角に立とうと走る。ドラゴンも僕の姿を捕らえようと進行方向を変える。僕とドラゴン、両方とも回っている状況だ。そんなやりとりに痺れを切らしたのか、ドラゴンは炎のブレスを放ってくる。このブレスは壁まで届くことを本の情報で知っていた。これを避ければ口への攻撃のチャンスになると思い、危険だがドラゴンの口が狙える距離まで詰める。ドラゴンの足での近接攻撃は回避できる可能性がある。
ドラゴンがブレスを放っている間に移動している僕はゴブリンから奪った刃物を試しにドラゴンに投げてみたが、やはり皮膚にはじかれ刃は通らなかった。ドラゴンはブレスを止め、前足で僕を引っ掻こうとしたとき、ウルが吠えた。ただそれだけだったがドラゴンは対象をウルに変えた。
きっと「小賢しい。こいつから倒して一対一に集中しよう」そう思ったのだろう。ドラゴンがウルに向き、僕はドラゴンの口が見える位置に移動する。ドラゴンはもう一度ブレスを吐こうとした。そして、そのとき僕はゴブリンの剣を投げる。それはそのまま口の中に入り、舌に刺さる。
「ゴオオオオオ!」
今度の鳴き声は、舌で音を変えられず素の振動の音を出す。ドラゴンは鳴きながら前足を浮かせ後ろ足で立ち、上を向いた。口からは大量に血が溢れ出していた。
「よし!これを繰り返せば!」
そう思った時、温度が高くなったのを感じた。そう、ドラゴンはブレスを天井に吐いていた。そのままそのブレスを地面に向かって放ってくる。ブレスが地面に達したが止めることはなく吐き続けていた。炎はドラゴンから扇状にどんどん広がってくる。
ドラゴンへ攻撃を加えれた嬉しさで反応が遅くなっていた僕だったけど、ドラゴンと正面で向き合っていなかったのでブレスに当たることは無く、広がる炎からも距離を取ることもできた。ウルは僕より早く気づいてその場から退いていた。
ドラゴンはようやくブレスを吐き終え、広がっていた炎も消えていく。そしてドラゴンを見るとさっきまでとは違い口から血が溢れておらず、代わりに蒸気が溢れ出していた。
「嘘だろ。自分の炎で治療したのか!?」
ドラゴンは前足を下ろして四足に戻る。その振動で怯んだ僕に間髪入れずに突っ込んでくる。ウルはもう無視されていた。今度はさっきよりも早くドラゴンは僕が左目の方向に回り込もうとしているのを読んでいた。そしてドラゴンは常に僕の正面にいる状態を維持してきた。ドラゴンは回っている間にも少しずつ距離を詰めてきていた。やがて壁へと追い詰められドラゴンの近接攻撃の範囲に入ってしまう。ドラゴンは頭突きをしようとして足を踏み込み、前へ羽を広げながら飛んだ。
僕は間一髪これを躱したがここでミスを犯す。右目の方向に躱したのだ。ドラゴンは僕をしっかり捕らえ、空中にいる間に自分の翼を思いっきり右にはためかせ、そのまま僕に体当たりしてくる。僕は吹っ飛び壁にぶつかる。壁は抉れていた。
幸いにも僕はまだ生きていた。それに意識も若干ある。壁から起き上がり、刃物を構えてドラゴンが口を開くのを待ってみたが一向に開こうとしない。この様子だともう僕との戦いでドラゴンが口を開くことはないだろう。
ドラゴンを倒せるかもしれなかった方法が無くなり、今度は右目を狙おうとして、最後の剣を投げるが、ドラゴンは右目が狙われていることを察し他の部位に刃物を当てるようにしている。
ドラゴンが攻撃に移ろうとしている。ウルも雷を放ったりしてくれているが効果が無いようだ。この状況の打開策を必死に考える。ドラゴンは油断せずにしっかりと仕留めるつもりで僕に詰め寄り、前足の鋭い爪で引っ掻いてくる。それをギリギリ避けるが、連続で攻撃を避ける中、一瞬反応が遅れてしまった。僕は胸を引っ掻かれてしまい鮮血が勢いよく飛び、意識が遠のいていく。
・・・はずだった。僕が引っ掻かれそうになった瞬間、横から衝撃が加わり、吹き飛ばされる。何事かと目を見張った。僕は血だらけになっていた。自分の血かと思ったが全く痛みを感じない。
そして気づく。最悪だ。横を見ると血をいたるところから流しているウルが横たわっていた。
「そんな・・・なんで・・・なんでだよ!なんで僕を・・・」
何を言っても、返事は返ってこない。涙で視界がぐちゃぐちゃになる。そして、そんな不安定な視界でドラゴンに憎悪の目を向ける。
「お前の・・・お前のせいで!!・・・僕は!」
手に力が入る。力が入りすぎて短刀を持っていない手からは自分の爪が突き刺さり、血が出てきている。そして、今持っている短刀に自分の持てるありったけの魔力を込めていく。淡くも強い期待を込めて・・・
「魔剣なんだろ!だったら今、あのドラゴンを殺す力を!見せてみろよ!」
すると短刀から光が溢れ出した。淡いなんてものじゃない。眩い光だった。僕はそのまま思いっきり踏み込み、跳んだ。ドラゴンは反応できていなかった。それほどまでに速かったのだ。そして、短刀を頭部に刺し、捻り、抉り、それからドラゴンの体に乗り、斬り駆け回った。大きな翼は捥げ、太い尻尾は切り落とされ、足は滅多斬りにした。
僕の暴走が止まると、もうとっくにドラゴンは息絶えていた。僕は静かに佇む。
「はぁ、はぁ、ドラゴンの所為じゃない・・・僕の所為なのに・・・畜生!畜生!畜生!」
なんとも言えない虚無感が僕を襲ってくる。友、仲間、心の支えだったウルの元に戻る。見れば見るほど深く酷い傷だった。こんな攻撃、喰らっていたら僕も死んでいただろう。ウルを抱えてまた泣いた。
泣き止むと、ウルとの生活を思い出しながらウルの頭を撫でる。決して長い間過ごした訳でもないが、家族のような安心感を持たせてくれていた。思い出しているとまた涙が出そうになる。そしてもう一度ウルの顔を見る。
「ごめんな・・・ありがとう」
ウルの口の口角は少し上がったまま固まっていた。