約束されていた始まり
それは偶然だった。ある日、どの文献にも記されていない文字、壁画が描かれた遺跡が発見された。その遺跡を調査する内にある一つの部屋を見つけた。その部屋は、これまた今の地球では絶滅していると思われている植物が生えていた。しかし、そんな部屋の中でも異彩を放っていたのは埃一つ付いていないと思わせるほど綺麗な石碑だった。そしてその調査に関わった全ての人はその石碑に惹かれて調査に没頭した。
そんなある日ある一人の研究員が、偶然石碑の近くに落ちていた石を興味本位で拾い、偶然つまずき、偶然石碑にあった穴にその石をはめ込んでしまった。そのすぐ後に地震のようなものが起きて・・・
これは遠い昔から定められた必然だったのかも知れない。
*
「奏太?ご飯冷める前に起きてきなさい」
母からの声が寝ていた僕を眠りから覚ました。覚めきっていない頭で今の状況を考える。もう朝か。僕は朝に弱いのだが、特段学校がある日の朝は嫌いだ。僕だけではないのだろうけど。
少しぼ〜っとして目を覚まそうとするも時間が経つにつれて、もう一度眠気に意識が持っていかれそうになって・・・
「何してるの、冷めちゃうでしょ!」
ひっ!断じて寝ようとなんて思っておりませんでしたよ!もう部屋に無理やり押しかけてくるのはこりごりです!
高校に進学してこんなやりとりを何回も繰り返している。僕、内海奏太は高校2年生の普通の学生だ。高校の制服に着替えて気だるくダイニングに行くとその時ちょうどやっていたニュースに興味をそそられた。
「先日富士山中腹の未発見だった洞窟から未知の遺跡が発見されました。研究員の方によると、今以上に人類の文明に迫っていける可能性が高い、とのことです。なおこの遺跡には、石碑があり、これについても今後調べていくとのことです。続いてのニュースは・・・」
この手のニュースは僕も男だし気になるんだけど、どうせ歴史には何の上書きもされないのだろう。そうぽんぽん新しいことが出てくるものでもないと思うし。
「おはよー、兄貴。やっと起きたんだ」
僕の席の隣に朝食を食べ終えた弟の内海楽が余裕を持った表情で話してくる。
「時間やばいんじゃない?」
「え?」
時計を見ると結構危ないラインに突入しようとしていた。僕は焦って朝食を食べ始めた。
朝食を食べ終え、学校に登校する。いつもと何ら変わりなく過ぎていく学校生活。まぁ、普通の高校生だからね。教室に入り、友人たちと会話をしていると授業の鐘が鳴った。
学校は特に変わりなく時間割り通りに過ぎていく。けれどちょっぴり今日変わったことがあったとしたら歴史の授業で先生から今日の遺跡のニュースのことを聞かれ、クラスのみんなが反応したことくらいだったか。
ちなみに僕は、学校では目立ちたくないからみんなに合わせるタイプで、高校2年に上がり三ヶ月が過ぎた今、クラスメイト全員とは友人と呼べるものになっていた。高校に入る前は運動部やスポーツ系の習い事もやっていたけど、入学を機にやめてしまった。だから特に何をするでもなく僕の毎日は過ぎていく。
しかし、あのニュースが世の中に広まるのを境に不思議と日常が変わり始めてきた。何故かみんなあの遺跡についての興味がどんどん高ぶって来ている。もちろん僕も。
そんな高揚感が湧き上がる毎日に、突然その日は訪れた。
「奏太はどう思うんだよ。あの遺跡みてーなものが夢にも出てきたことについてよ」
教室で今僕と話しているのは体格が良くて、クラスの中で結構リーダー的なポジションにもいる沼津光助だ。多少強引なところが玉に瑕だが、僕とよく話してくれるいい奴だ。
「俺も奏太はどんな夢を見たか聞きたいな。因みに俺はみんなが見たような夢は見なかったな」
光助の隣りにいる眼鏡をかけたしっかり者の見目累も興味を持って話してくる。勉強も政治も経済も分からないことがあれば、だいたい教えてくれるできるやつだ。基本は僕を入れたこの3人で話している。
「僕もそんな夢見たことあるよ。なんか暗い場所に一人で怖くって」
今思い返すとそんなことを夢の中で思ったのかと、自分に対しての嘲りも入った笑顔で答えた。
ふと、累の顔を見ると少し訝しげな表情をしていたが、それはすぐに元の表情に戻った。
「そうか〜、俺の夢はクラスのみんながいたな。結構誰がいたとか覚えてんだぜ。あれ?でも、そん中に奏太っていなかったような・・・」
光助が話していると突然、大きな地震が起きた。揺れに耐えれず誰もが床に倒れた。所々から悲鳴が聞こえてくる。恐怖と混乱に支配されていた時間は長く感じられた。
やがて揺れが収まり状況を確認しようと光助が教室内を見渡す。それから、窓際に立って外を眺めると一言。
「嘘だろ…」
僕は光助と同じ景色を見ても何も感じなかった。ただいつものように家が立ち並んでいるだけ。教室も何も変わっていない。
「なんでそんなに不気味がっているんだ?いつもと変わらない光景に見えるけど」
そう言うと、なんで気付かない!?といった表情でこちらを見てきた。
「あんな大きな地震だったのに家が倒壊したり教室の机だってずれてないんだよ!」
そう言われてようやく気づく。今の地震の異常さに。そして光助の言葉を聞いて外を覗く人で窓際はいっぱいになっていた。しばらくして、放送がかかった。グラウンドに集合だそうだ。みんな我先にとグラウンドに向けて教室から飛び出した。当然僕も必死でグラウンドに向かっていたが、途中で教室に忘れ物をした事に気づいて教室に向かった。そして、一緒にいた光助に一言告げる。
「教室に忘れ物しちゃった!取って来るから先行ってて!」
「お、おい!今戻ったら・・・」
僕は強引に引き返しすぐに走り出した。
「光助、俺も行ってくる」
「お、おい!累まで!」
*
「全員いるか点呼をして私のところまで報告に来なさい」
担任が校長の指示通りに動いている。そして点呼が終わり、学校にいた生徒の確認が出来た。二人以外は。
「先生!内海君と見目君ががいません!」
「何!?すぐに校内を探そう!木本先生、横井先生、トランシーバーを持って確認してきてもらえますか?」
声をかけられた教員は焦りの表情を見せて校舎に走っていく。行方不明者がいると聞いて誰もが不安になる中、追い討ちをかけるように衝撃は続いた。
ピカッ
一瞬、閃光が走る。全員手で顔を覆い眩しさから逃げる。再び校舎を見やると校舎は消え去りまるで元からそこに校舎の代わりにあったかのように大きな穴が開いていた。そしてその光景を見た光助は目の前の出来事を受け入れることができずに、ただその目を見開くばかりだった。
本作品をお読みいただきありがとうございます。誤字・脱字・物語として不可解な点などありましたら、教えていただけると幸いです。