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1000字短編

悪役令嬢はスローライフを語り怪盗の旗を折る

作者: 百地おもち

 いいのよ、アラン。運命の相手に出会ってしまったなら、仕方ないわ。恋する心は、誰にも止められないもの。

 貴方はきっと、(わたくし)との婚約を白紙にされるおつもりね。けれど、色恋を理由に貴族同士の婚約を無効になどできないわ。


 恋に狂った貴方は、邪魔な婚約者を排除なさるでしょう。ありもしない不義の噂をばらまいたり、その可愛い方を破落戸(ごろつき)に襲わせた犯人が私だなんて、恐ろしい濡れ衣を着せて名誉を汚すのです。

 私はお慕いする貴方から、こんな女とは結婚できないと、公の場で棄てられてしまうのよ。


 もう王都では暮らせませんわ。惨めな小娘は家を出るよう、お父様から……いえ、お母様から……ううん、お兄様から……死んでも言いませんわね。

 そうだわ! 妹のマーシャなら、紅玉のブローチをあげれば言ってくれるかもしれないわ。


 買収に応じたマーシャの命令に従い、咽び泣く両親と兄を振り切って追放された私は、粗末な小屋に住み、畑を耕して生きるのです。

 たぶん、栽培する作物はホロロ(いも)よ。

 ホロロ芋を作り、ホロロ芋を食し、またホロロ芋を作る毎日。衣服はホロロ芋繊維のドレス、履き物はホロロ芋蔓(いもづる)を編んだ草履(ぞうり)

 すっかりホロロ芋女に成り果てた私が、(くわ)(かつ)いでトボトボ道を歩いていると、立派な馬車が通りかかるのです。


 馬車には貴方たちが乗っているの。きっとご旅行の途中でしょうね。落ちぶれた私に、貴方たちは気付かない。立ち竦む私へ御者が横柄に尋ねるわ。


「おい、女。エレガンス城への道は、ここであっているか?」


 私は、こう答えるの。


「ホロロォ……」


 おお、神よ……なんという悲劇でしょうか!


 ずっと誰とも口をきいていなかった私は、言葉を忘れているのです。悲しいわ、アラン! なんて悲しいの! こんなにお喋りな私が、ホロロしか言えなくなるなんて!


 □


 宰相子息アランは困惑した。彼は(セント)ラブリー学園の校内で迷っていた下級生の男爵令嬢を、道案内していたのだ。そこへ通りかかった婚約者が涙ながらに、先程の与太話を始めたのである。


「嫉妬かい、ビアンカ?」

「そうですわ!」

「それが何故、芋の話になるんだ。まったく……君って人は、僕がいないと駄目なんだな」


 あとは直進するだけだと下級生に教えたアランは、婚約者を連れてカフェテリアへ向かった。

 彼は知らない。最近、高位貴族の子息へつきまとっている下級生が、婚約者を憎々しげに(にら)んでいたことを。


 そして、ビアンカが彼女を振り返り、薄く冷笑したことを……。

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― 新着の感想 ―
[一言] にやにやしながら読みました 面白かった!
[一言] よく逆ハーなんて狙えますよねえ……。貴族が逆ハーなんて上手くいくはずないのに……。 面白かったです。
[一言] 「ホロロォ……」に笑ってしまいました。 そりゃあアランも、こんな(一見残念な)婚約者放置出来ませんよね。 いくら男爵令嬢が縋ってきても、『君には多くの取り巻き達がいるじゃないか。でも彼女には…
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