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創作戦国(短編メイン)

残された子

作者: ariya

「そうか……」


 武藤家の館にて部下の知らせを聞きながら昌幸は空を眺めた。

 赤々と染まる夕焼け。

 少しずつその赤が闇に溶かされていく。


 天正3年5月21日(1575年7月9日)

 設楽原の戦いにて武田軍は織田軍に負ける。

 数々の名だたる将が討取られていった。その中に武藤昌幸の兄信綱・昌輝もいた。

 多くの防衛柵と大量の鉄砲を利用した包囲網の中果敢に挑み、散った。


「兄上たちらしい」


 昌幸はふと兄の子たちのことを考えた。

 信綱の子らは生まれた時より身体が弱い。果たしてこれからの武田家の中真田家当主としてやってこれるのだろうか。

 また昌輝の子はまだ2つだ。

 自分の二男よりも年下の童はこれより如何にするのだろうか。


「……」


 昌幸は頬をかきながら、思案した。



 あくる日、武藤家の様子は慌ただしかった。真田家当主亡き後、武藤家へ養子として出ていた昌幸が新たな真田家の当主になることになった。無論、兄・信綱には子がいる。しかし、いささか若く病弱である為、これからの武田家を支える家臣・真田家を率いていくのに不安があった。

 その為、武田家当主・勝頼が真田家の新たな当主は昌幸にととりなしたのである。これは幼い頃より付き合いのある昌幸を頼ってのことだろう。

 そういうわけで武藤昌幸は真田家新当主になり、今から武藤家の館から真田家の方へ引っ越すことになったのだ。

「兄上、私の竹トンボ知りませんか?」

 弁丸はちょこんと兄の部屋に顔を覗かした。

「いや、なんだ、なくしたのか?」

「……いえ、昨日まではあったのですが」

「全くしょうがない」

 源三郎は立ちあがり、弁丸の部屋へと弁丸とともに行こうとしていた。

「そういえば父上が見あたらないな」

「はい。何でも大事な用事があるとかで」

「まったく、自分の家のことだというのに」

 源三郎はやれやれと父の勝手さに呆れた。そしてその呆れ具合は真田家の館に入ってさらに悪化したのだった。


 真田家の館にて源三郎・弁丸兄弟に待っていたのは新当主の昌幸であった。昌幸の腕には幼児が抱かれている。二、三才ほどであろうか。綺麗に整えられたおかっぱの髪がかわいらしい。

「………父上」

「な、何じゃ。源三郎。その辛辣な瞳は…それが父に向ける瞳か」

「そういう瞳になってしまうのは仕方ないですよ。で、どこの娘に産ませた子ですか?」

「何を言っているのか!こやつはな」

「おうい、弟よ。兄の弁丸だぞ!竹トンボをやろう」

 父と幼児の方に近づいた弁丸は先に探していた竹トンボを赤ん坊にやろうとした。幼児は嬉しそうに竹トンボを手にしようとしたが昌幸が制止する。

「こら、弁丸! いけません。こんなちっちゃい子供にそんな物を与えては。この年の子は与えられた物は何でも口にしてしまうんだから!」

「全く……で、母上はこのことはご存じで? よく今までこんなに大きくなるまで」

「馬鹿もの! お前は儂がどこかで隠し子を育てるような男に見えるか!!」

「どこぞの娘に手を出して子供を産ませ、母上が怖くて今まで隠してきた……くらいはする男だと思います」

 まだ幼い子に厳しく言われ、昌幸は口を尖らせる。

「全く、可愛げのない。のう、五郎や。あのお兄ちゃんはあれで9歳なんだぞ。びっくりだよな。あんなに捻くれちゃって……お前はあんなお兄ちゃんのようになっちゃだめですよ」

「五郎……兄上ですよ。兄上って呼んでみなさい」

 弁丸はわくわくと幼児に声をかけた。

「あ、……あぃ?」

「源三郎、弁丸……五郎って名前を聞いて何も思い出せんのか」

「……」

「はて?」

 弁丸は首を傾げる。ある意味わざとらしい。

「五郎といってもどの五郎なのか?」

「五人目だから五郎ですか。他にも弟がいるということですか」

「やった!他の子はいずこですか」

 弁丸はきょろきょろとあたりを見回した。

「兄・昌輝の子五郎じゃ!! 去年、昌輝兄上の館にて挨拶しただろう」

「あー。その五郎でしたか」

 てっきり隠し子だと思っていた源三郎は適当に相槌をうった。

「わぁ、五郎……大きくなったんだね!私を覚えているかい。従兄の弁丸だよ!」

「あぁ……」

 五郎は首を傾げ困ったように叔父の顔を見つめた。

「知っての通り。先の戦にて昌輝兄上はお亡くなりになられた。五郎はまだこのように幼い。よって儂が育てることにした。源三郎、弁丸……五郎を弟と思いしっかりかわいがってやるんだぞ」

「はい!」

 今まで末っ子だった幸村は新しい弟ができたように五郎を歓迎した。

「全く紛らわしい。それならそうと早く言えばいいのに」

 源三郎はやれやれと弁丸とともに五郎をあやした。

「勝手に隠し子だと解釈したのはお前だろう」

 と昌幸は思ったが、内にとどめておいた。

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