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夜になって、再葉は寝かせている。
それは若葉の配慮でもある。
最近の再葉は、一日中眠っているようだ。
何かがあっても、なかなか起きない。
「まずは、来てくれて感謝するわ」挨拶代わりに若葉が、俺に頭を下げた。
「ああ、俺は再葉に会いたいからな」
「そう、うれしいわ」
「あんたが喜んでも俺は、うれしくない」
「そうでしょうね」
若葉は、すぐにしんみりとした顔に変わった。
俺は、そんな若葉の方をしっかりと向いていた。
「どうして、ここに引っ越しした?」
「引っ越しは、当然の処置よ。これは決まっていたことだから」
「決まっていたこと?」
「すでに、あの一年彼女の終わりは知っていたの。
これは予約された美来、運命というのかしらね」
「そうかよ」俺は不満そうな顔を見せた。
「じゃあ、再葉が記憶を失うのは?」
「それは私たちが、決して望んだことではない」
「だったらなぜ……」
「再葉は、時間逆流に苦しんでいたから。
彼女を救うことが、彼女の幸せにつながるの」
若葉は、俺に迫ってきた。
その顔は、とても真剣で切羽詰まっていた。
「今の再葉は、幸せなのか?」
「ええ、少なくとも」
「俺の記憶を、こうやって忘れてもか?」
「時間逆流は、彼女を苦しめる一因よ。
それを救えるために、私は努力を続けてきたのだから」
「再葉の望みでも?」
「ええ、代価は大きいけど。
だけど、あなたにわずかな希望を見出したのよ。
あなたにしか、再葉の記憶を取り戻すしかできないから」
「俺に?」俺は首をひねった。
「そう、あなたに私たちの組織に入ってほしいの」
「組織って?」
「それは……」
若葉は、そういいながら俺に話し始めた。




