009
浜松には、小さいころから何度か遊びに来たことがある。
俺たちのいる掛川よりもずっと都会で、いろいろと刺激的な街だ。
なんといっても、ここには一番有名な場所がある。
それは、俺らの目の前に広がっていた。
「海だねっ!」
「海じゃない、湖だろ」
それは浜名湖だ。静岡の西部に位置する大きな湖。
遠足かなんかや子供会の集まりで、よく行く場所だ。
湖の周りには、公園や遊園地もあって、一大観光地になっていた。
「やっぱり誰もいないか」
「まあ、ここは観光地から少し離れているからね」
「降りる駅を、間違えただけだろ」
「ま、まあ……そうかも」
駅の近くは、湖だけが広がっている。
公園や遊園地のある駅は、少し先の駅だ。
「遊園地に行きたかったのか?」
「うーん、お花を」
「なるほど、ガーデンパークか」
確かに浜名湖には、大きな植物園がある。
小学校の遠足では……行かなかったし俺もあまり興味がない。
「案内を見ると、かなり遠くだぞ」
「そうね」
案内板の前に、俺はいる。
大きな案内板は、湖を背に立っていた。
砂浜が広がっていて、釣りをしている人がちらほらいる程度だ。
「意外と花か……普通に好きなんだな」
「当たり前です、本郷君」
俺の言葉に、強く否定する再葉。
まだ、俺の名前を呼ぶことには抵抗があるらしい。
「ガーデンパークに行くには、バスで……」
「その前に、あれを見て!」
再葉が指をさしたのは、一軒のプレハブの小屋。
小さな小屋の上には、『遊覧船チケット売り場』と書かれていた。
「なるほど、船でも行けるのか?」
「いえ、普通に遊覧船に乗りたいなって」
「まあ、いいんじゃない」
正直、俺はこのデートにプランを持ち合わせていない。
ブレザーの胸ポケットから取り出したメモを見て、何かを見ているようだ。
相変わらず俺には、メモを見せないようにしているが。
「じゃあ、行きましょう」
「はいはい、わかりましたよ。姫様」
「姫じゃない、私はあなたの彼女ですから」
投げやりの俺の言葉を、再葉は否定しつつプレハブ小屋に向かっていった。




