089
俺の目の前には、いつも呆然としている彼女がいる。
それは記憶を失った再葉に会いに来ていた。
再葉は、いつも俺を何となく見ている。
「再葉、俺がわかるか?」
「本郷君?」
「そう、本郷 健斗。再葉の彼氏だ」
「彼氏?」その言葉にピンときていない。
俺をみて、不思議そうな顔を見せていた。
今、俺は再葉のいるリビングに来ていた。
バイトもない今日は、再葉に会いに来ていた。
リビングのソファーの上で、ちょこんと座る再葉。
俺はその目の前に、かがんで再葉を見上げていた。
「俺は、再葉の彼氏だぞ。忘れたのか?」
「はい、あなたを知りません」
「そうか、あの時俺と……」
「なんですか?」
再葉の表情は、とても冷めていた。
俺のことなんか、何も覚えていない。そんな感情だ。
「再葉、どうして」
俺は再葉の手を握って、うなだれた。
そんな再葉は、呆然とうなだれる俺を見ていた。
「なんだか、ごめんなさい」
「謝罪なんかいい。俺は、再葉に……」
「無駄なのはわかっているでしょ」
そんな中、俺に声をかけたのは美来だ。
小さな女の子の美来は、腕を組んで俺を見下ろしていた。
「再葉は、今でも記憶を失っている」
「そう、あなたとの記憶はない」
「なぜ、そんなに美来は平気なんだ?」
「平気じゃないわよ」
美来の顔も、どこか曇っていた。
落ち込んだような様子で、俺を見ていた。
「美来」
「再葉は、あたしのことも忘れていたのよ。
こんなにもかわいい美来のことを、忘れてしまうなんて……」
「そうだよな、方法はないのか?」
「その件についてだけど」
そんな中、家に一人の人間が入ってきた。
それは、スーツ姿の若葉が俺たちの前に現れた。




