088
休憩を終えた俺は、いつも通り厨房に戻っていた。
厨房で、俺は調理三昧だ。
仕事も、今日は割と客が多くて忙しい。
「今度は、本郷こっちのオーダーを」
「はい」先輩の指示を受けて、次のオーダーをこなす。
手際よく俺は、ハンバーガーを完成させていく。
だが、忙しさは一向に変わらない。夜になっても珍しく、今日は忙しかった。
(忙しいな、これ)
手を動かしながら、仕事をこなす。
そんな中、俺はふとカウンターに目を向けた。
「あれ、響」
響の後ろ姿が見える、誰かと話をしているのだろうか。
だけど客を見て、俺は驚いていた。
「香音」そう、そこには香音がいた。
ミニツインテールの髪に、穏やかな顔で響と何か話をしていた。
そうだ、香音は裏の世界の人間。
俺は思わず忙しい厨房を離れた。
「香音、どうして」
「あっ」その香音は、ハンバーガーの紙袋を三袋も両腕に抱えていた。
普段は無表情な香音だけど、少し照れているような顔を見せた。
「おまえ、それは」
「何、買いに来ただけよ」
「お買い上げ、ありがとうございます」
思わず、俺は頭を下げた。
俺が作った料理を、買っている人がいるからだ。
単純な感謝の気持ちを、俺は素直に態度に現した。
「ど、どうも」
「いやぁ、こうやって買ってもらえて、素直にうれしいぜ。しかもこんなにたくさん」
「はい、一人で食べるのですが」
「一人って……」
「香音は、一人暮らしですよ」
それは、いつもながらに落ち着いた顔を見せていた。
その言葉を聞いて、俺は少し冷静な顔を見せた。
「香音は、両親はいないのか?」
「いません」
「兄弟とかは?」
「いません」
「じゃあどうやって……」
「香音は、逞しいので一人でも生きられますから」
「マジかよ、すごいな」
「冗談です」香音は、いたって冷静だ。
その言葉は、全然冗談に聞こえない。
「香音は、若葉さんにちゃんと保護されていますから」
「若葉さんが?あの人は一体……」
「私たちの保護者です。
再葉も、美来も、同じように香音も保護されています」
「そうか」
「ちょっと何の話をしているの?」
そうだ、ここはレジだ。響が俺と香音のやり取りを見ていた。
「いや、その……」
「それより、あなたは周囲に気をつけた方がいい。
あなたは、誰かに尾行されているから」
「え?」
「香音にやった時のように、後ろをよく見た方がいい」
そんな言葉を残して、最後に香音が立ち去っていた。
俺は、一瞬後ろを振り返ったが怒っている厨房のリーダーが俺を睨んで腕組みをしていた。




