087
翌日の夕方は、バイトの日だ。
ショッピングモール内のファーストフード店の厨房、そこが俺の仕事場だ。
厨房から休憩所に行く時だけが、俺の至福の時だ。
その休憩所には、響がいた。
いつも通りの、店員服でハンバーガーを食べ終えたところだろうか。
「響、いたのか」
「うん」
「どうした?」
「中本さんとは、いつも仲がいいのね」
響は、俺に不意に聞いてきた。
香音のことを尾行して以来の久しぶりの会話、響の心は落ち込んだままだ。
再葉のいないこの状態は、彼女に暗い影を残したままだ。
だから、俺は話すことができなかった。
「ああ、いろいろあってね。まあ今は、そこまで仲が良くもないけど」
「そう、あのさ」
「なんだよ?」
「再葉にそっくりな子が店に来たの」
「え?」響の言葉に、俺は驚きがあった。
俺の知っている再葉は、今は記憶を失っている。
若葉に保護されていて、化け物になっていた。
「そっくりって?」
「そっくりな子、でも違う。あれは再葉じゃないわ」
「そうか」少しビビったが、俺は納得した。
響は、罪悪感によって再葉を見ているのかもしれない。
いじめたことの罪は、彼女の中では消えないのだ。
「まあ、そういうこともある。
でも、本当に響は後悔しているんだな」
「あの子は強いと思っていた。
いじめられても、平然としていたから。
だけど、違う。あの子は強くなんかない」
「そうだな、今度はちゃんと会えるといいな」
「うん」響は、今でも元気がない。
そんな響を、俺は慰めるしかできなかった。
「あ、接客っ!誰か出られる?」
そんな時、店の方から大きな声が聞こえた。
「はい、あたしが出ます」
そういいながら、響が立ち上がった。
心なしか少しだけ笑顔を見せた響は、そのままドアの方に向かっていった。




