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一年彼女  作者: 葉月 優奈
一話:一年彼女と出会いの日
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008

翌日、俺は電車の中にいた。

この日は平日だし、学校のある日だ。

だけど、俺はズル休みをしていた。


家を制服で出てきた俺は。家族には、学校に行く素振りを見せていた。

電車の中は、人がほとんどない。

一時間に一、二本しかない電車だけどそれでもガラガラだった。


「ガラガラじゃん!」

「そうね」俺の隣に、座るのは再葉。

再葉は、少し眠そうな顔を見せていた。


「どうした?なんか眠そうだぞ」

「えっ、そんなことないかっ!」少しかわいく言って見せた再葉。

叫んだ再葉の声が、広い電車内に響く。


「そうか、四十万。で、これはどこに向かっている?」

「行きたい場所があるの、デートだから」

このデートの希望は再葉だ。

学校をズル休みするのも、再葉の希望だ。

学校をズル休みしてどこかに行くことは、俺にとっては初めてだ。

再葉は、何度もあるのだろうか。


「どこだよ、こっちの方だとどう考えても名古屋の方だろ」

俺の言葉に、四十万はじーっと何かを見ていた。

それは、白いメモ帳だ。ブレザー姿の再葉は、集中してメモ帳を見ていた。


「いつも大事そうに見ているメモ帳、何が書いてあるんだ?」

「見ちゃダメっ!」

俺の言葉に対し、俺に背中を向けて拒絶反応を示す再葉。

顔が赤くなって、反応する再葉は少しかわいらしい。

いじけているのか、童顔の再葉は俺には秘密が多いようだ。


「相変わらず、秘密が多いな」

「いろいろ言えないことが、私はとても多いの」

「俺が彼氏でもか?」

「今は、無理です」

結局、再葉が何かしら秘密を持っている。

その秘密に踏み込むすべはないが、あまり気にするものでもないだろう。

まあ一つだけ言えることは、彼女には彼氏がいないことだろうか。


生活感のない、モノクロの部屋。

少し強引で、しゃべりが苦手なところ。

クラスでも一人でいることが多い再葉。

どうして彼氏を作ろうとするのか、なぜ一年なのか。

その二つの理由は、俺にはわからないでいた。


「なんか悪い」

「いえ、私の方こそごめんなさい。こんなことに巻き込んで」

巻き込んで、という言葉が彼女のおかしなしゃべり方だ。


「四十万は、昔は彼氏とかいるのか?」

「いえ、いたことはありません。本郷君は?」

「俺もいない」

「ええ、意外。なんというか、クラスでは女子とよく話しているのに」

「ま、まあ」女子と仲良しであることと、彼女持ちはイコールではないことだ。

家に帰れば、三人の姉、父は単身赴任で東京にいる。

言ってしまえば家族ハーレムで育った俺の話す相手が、自然に女子ばっかりになっていたことだ。

その影響で、逆に男友達は少ない。


「そうですか、本郷君のことが心配だったんですよ。

うちのクラスでも、女子と仲良しだから。

いつも女の子と一緒にいるので、ほかの人に浮気するのか心配で……」

「別に浮気なんかしないよ。恋愛感情を、基本は持ち合わせていないからな」

それは今もそうだ。再葉に、強い愛情はない。

ただ、何となく彼女を心配しているのかもしれない。

今の俺にとって、恋愛は不要だったから。


「でも、梶原さんとは仲がいいでしょ」

「梶原?ああ『えりちょー』か」

「『えりちょー』?」

首をかしげて、俺を見ていた再葉。


「梶原 恵理那、クラス委員長。二つをまとめて『えりちょー』。

えりちょーと同じ中学で、仲いい女子がそう呼んでいるって」

「あだ名、ですか?」

「まあ、みんなそう呼んでいるし。別におかしいことではないだろ」

「え、でも……」

「逆に四十万は、恵理那のことをなんて呼んでいるんだよ?」

「えと、私は、その……梶原さんで……」

意外と恥ずかしそうな顔で言う再葉。


「そうか、まあそれが普通だな」

「そうですよ、本郷君はおかしいです」

「じゃあ、四十万のこともなにかあだ名で呼んだ方がいいか?」

「え?」

「俺は『本郷 健斗』だ。

みんなからケンとか、ケンタとか言われている……ケントなのに」

「えっと、あの……」

「四十万の名前は、再葉だったよな」

「はいっ」自分の名前を、俺に口を出されて裏返った声で返事をした。


「じゃあ、四十万はフタタとか、フータンとか言われているのか?」

「あの、私は友達いないから」

「香音とは仲いいんだろう」

「香音……馬走(まばせ)さんですか」

「そんな苗字だっけ?『うまばしり』と読むのかとかと思った」

「そんなことを言ったら、馬走さんに怒られますよ」

なぜかクスリと笑っていた再葉。

笑った顔が、普通にかわいい。再葉の顔は、少し幼く見えるだけに子供っぽくも見えた。


「何を見ているの、本郷君?」

「ああ、再葉の顔だよ」

「再葉?私の名前」やはり自分の名前を言われることに、少し抵抗があるようだ。

「恥ずかしいのか?」

「いえ、私の名前ですから」

四十万 再葉は、しっかりと俺を見ていた。

何か無言で頷いて、「再葉、再葉」とつぶやく。


「大丈夫か?」

「はい、私は再葉ですから。その方が彼女っぽいですし」

「ああ、じゃあ俺も健斗って呼んでくれるか?」

「え、いい……の?」

そこは照れている再葉。

苦笑いをした俺は、再葉を見ていた。


「当たり前だろ、俺は彼氏なんだし。その一年間の間だっけ?」

「そう……ですよね、本郷君」

「健斗な。再葉」

「あ、はい。じゃあ健斗」

やはりぎこちない再葉だ。

再葉は、男ともほとんど話をしたことがないんだな。

それなのに、俺を彼氏にした理由は何だろうか。

やっぱり、その理由はわからないままだ。だがそれ以上に、今の疑問を口にした。


「それで、どこに向かっている再葉?」

「もう着きますよ。健斗」

再葉が窓を見る。俺たちの乗っている電車は、大きな橋を渡っていた。

大きな橋の下には、大きな川……というより海のように広い水辺が広がっていた。



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