079
車の運転をしている若葉は、少し見慣れた場所に来ていた。
ここは、香音を前に尾行していた時に歩いた住宅街だ。
磐田市内にある住宅街で、道は少し狭い。
「俺の記憶を忘れさせて、どうしたかったんだ?」
「あなたに、この世界に来てほしくなかった」
「それは香音も、そういっていたな。世界がどうとか……」
俺の後ろには、香音も乗っている。
「私たちのいる世界は、危険なの。
普通の人間は一発で殺されてしまうような、あなたのような普通の人が立ち入ってはいけない世界」
「どんな世界だよ?」
「闇の世界、裏の世界」
「闇?裏?」
「言い方はいろいろあるけど、要はあなたの知らない世界よ」
「知らない世界」
「それは、化け物が住む世界」
若葉の言葉に、俺は首を傾げた。
「化け物?」
「ええ、再葉は化け物だから」
「なんだよ、再葉は普通の女の子だ」
「初めは化け物だった。価値のある生き物だった」
「どういう意味だよ?」
「再葉は、特別だから。彼女の腕力や力が、普通の人間のはるか上。
オリンピックの重量挙げの選手よりも、強い腕力があるわ。あなたは心当たりがない?」
「ない……こともない」
再葉が俺の腕をとった時に、強い力で握ってくることもある。
その強さは、女子の腕力とは思えないほどの強い力だ。
「あの子には、力を落とすように言ったのだけど。
本気であなたの腕をつかめば、あなたの腕は完全に骨折、運が悪ければバラバラに砕けてしまうわ」
「マジ、かよ?」
「それが、再葉は化け物である理由」
「それ以上に気になるのが、価値のある生き物というのは?」
「再葉を狙っている敵よ」
敵という言葉にも、聞き覚えがあった。
「再葉は、何に狙われているんだ?」
「敵、彼女はある場所から連れ去ったのよ」
「連れ去った、物騒だな?」
「彼女の価値を消すためだから」
後部座席から、顔をのぞかせたのは美来だった。
その顔は、いつも通りのかわいらしい子供の顔をしていた。
「再葉の価値を消すって、一体どういう意味?」
「しょうがないわね、美来と再葉の話をしてあげるわ」
それは美来が、俺に見た目通り上から目線で話してくるのだった。




