078
車の中には、俺と美来と眠っている再葉がいる。
運転手はもちろん若葉で、俺は助手席に座っている。
この車は、少し大きなワンボックスワゴン。
土から掘り出された再葉は、美来に付き添って眠っていた。
「ああ、俺も聞きたいことがあったな」
「そうね、先にあなたは知る権利があるわ」
「まず、なんで再葉はあそこにいる?」
「再葉は、記憶を失っていたの」
「それはわかるが、あのタワーから飛び降りて生身の人間なら即死するだろ」
「そうね、再葉が普通の人間ならば」
「どういう意味だよ?」
俺は思わず怒った口調で言い放つ。
「再葉は、普通ではないのよ。
あなたの周りでも、起きているでしょ。
再葉の周りに起こっていることが、普通ではないことが」
「普通ではない?」
「まあ、一度はあなたの神経を揺さぶっているけどね」
若葉は運転をしながら、不敵に笑って見せた。
そのまま、車は畑から市街地の方に向かっていく。
「神経を揺さぶる?」
「あなたの記憶を消したのよ」
「俺の記憶を消した……まさか」
「そのまさか、あなたは記憶障害が最近あったはずよ」
「あの日も、そうか」
「そう」といった瞬間に、俺は隣の若葉の腕をつかむ。
「若葉さん、どうやって俺の記憶を?」
「運転中よ」若葉の手元が狂い、車が大きく蛇行した。
揺れた瞬間に、俺は若葉の腕を放す。
「ごめん」
「まあ、いいわ。そのカラクリを、話してあげる。
あなたの脳内の記憶の交感神経を操作した。
操作するために、私と接触する必要がったの。覚えている、私とのキスを」
「まさか、あれが……」
「ええ、数時間分の記憶を忘れらせる、私のキスを」
唇に人差し指を合わせて、怪しく誘惑する若葉。
それは、若葉の胸ポケットに口紅が見えていた。




