068
恵理那は、高校に入ってからの知り合いだ。
そんな恵理那は、俺に告白をした。去年の修学旅行の丘での話だ。
俺は恵理那に、返事を返していない。
香音の妨害があったが、恵理那を俺は救わなかった。
「恵理那」
「四十万さんは、本郷君によって大事な人だったんだな」
「ああ、そうだな」
「うれしくて、悲しくて……私」
「恵理那、泣いているのか?」
恵理那が繁華街の道端で、涙を流す。
その光景を見て、通行人がこちらをチラチラと見ていた。
「落ち着けって、恵理那」
「だって、私……本郷君をやっと諦められるもの」
「あきらめる……か」
俺は恵理那の言葉を、少し理解できた。
俺は、諦めが悪いだけなのかもしれない。
いるかもしれない再葉を、今でも追いかけている。
俺も、再葉をあきらめた方がいいのかもしれない。
前に進んだ方がいいのかもしれない。
そんな涙を流す恵理那を見て、俺はハンカチを出す。
「涙、ふけよ」
「でも……ありがと」
恵理那が俺のハンカチを受け取って、涙をぬぐっていた。
「私は、あなたのそういうところが好き。
私が会った、初めての怖くない男性」
「怖くない男性?」
「私、男性苦手だったの。男性恐怖症っていうの。そういうやつなの。
男の人が、手を挙げただけで怖い……怖いの」
震えている恵理那。顔も青ざめていた。
「なんでそんなに?」
「私のかつての父は……私に手をあげていて……苦痛の人だった。
私も母も逃げてきたの」
「そうか」
恵理那はそういう過去があったのか。
そういえば、恵理那は他の男子と話したことを見たことないな。
「今は、本郷君以外にも男性と少しずつ話せるようになったから」
「なら、いいな」
「だけど、あなたが苦しいのは嫌なの」
それは恵理那の言葉だ。
恵理那も響もそうだが、俺はそんなに苦しそうなのか。
そういう顔を、俺は出してしまっているのだろうか。
「わかった、ありがと。俺は元気だ。
恵理那にも、心配させてすまなかった」
「そう、ならばよかった」
「それにしても、四十万さんって転校したのよね」
「どうした?」
「いえ、なんでもないわ」
恵理那はそんなことを言いながら、スマホを見ていた。
スマホの時間は、夜十時を示していた。
「あ、こんな時間だから迎えが来るから。帰るわね」
俺に手を振って、恵理那は離れていった。




