066
俺と響は住宅街を引き返していた。
俺は、落ち込んでいた。俺の僅かな迷いが、再葉を苦しめた。
再葉は、俺の言葉を待っていたが俺は最後まで言えなかった。
あの言葉を言って、再葉は変わったのだろうか。
それとも、彼女は秘密を守り通すのだろうか。
今となっては、確かめる術もない。
再葉はいなくなり、再葉の家も消えた。
再葉に対する唯一の手がかり香音には、冷たく言い返された。
「ケン……大丈夫?」
「平気だよ」だけど頭の中は、グルグル回ったままだ。
再葉のことで、頭がいっぱいだ。
再葉は、何者だろうか。
香音も、何者だろうか。
二人のいる世界は、なんだろうか。
そのあたりが、俺はわからない。
「ケン、本当に?」
「ああ、しばらく休もうと思う」
「え?」
「バイト休みたい。連絡をするから」
「そう、残念ね」響は、少し悲しそうな顔を見せた。
「響も、再葉に会いたいのか?」
「そりゃあまあ、いなくなってというか……なんとなくというか」
響の罪悪感も、まだぬぐえないままだ。
本人に会えなければ、その気持ちは永遠に残る。
それは響の傷であり、再葉の傷でもある。
「でも、再葉を探すつもりなの?」
「もちろんだ」
「アテは?香音だけがアテなんでしょ」
「若葉さんを探すしかない」
「若葉さん?」
「再葉と一緒に暮らしている人だ、あの人を探すしかない」
俺は、そこに迷いがなかった。
だけど、その若葉の場所は知らない。
「そう、どうするの?」
「俺は絶対に探す」
「再葉にそこまで会いたいの?」
「ああ、会いたい」
俺は再葉に対する気持ちが、さらに強くなったのかもしれない。
再葉がいなくなったことが、気持ちを強くさせた。
予告されて分かっていても、失う怖さが俺にはあった。
「だから、俺はどんな手を使っても若葉さんや再葉を探す!」
「ケン……」
立ち止った俺を、響は後ろから見ていた。
「だから、少しお別れだ」
夕日が暮れる住宅街で、俺は響にはっきり言っていた。




