064
そのアパートには、見覚えがなかった。
少し古ぼけた鉄筋のアパートだ。部屋は一フロアに五部屋ある。
アパートに俺が近づくと、香音は立ち止った。
俺と響は、慌てて家のブロック塀の裏に隠れようとする。
しかし振り返った香音は、そのまま「止まりなさい」と強い口調で言い放ってきた。
その目は、どこか冷たい目で塀に隠れようとする俺と響を見ていた。
「香音……」
「本郷君、香音を尾行したの?」
「ああ、そうだ。俺は真実が知りたい。
再葉も香音も、俺は疑っていないんだ。
なんで再葉が、あのタワーから飛び降りたのかを。それとお前たちのことも」
「知っても、ロクに何もできないのに?」
「あんたが秘密を隠しているのが、問題でしょ!」
俺の前に響が出てきた。険しい顔で響が香音を睨む。
響と香音は、やはり同じ中学だから知っている。
だからこそ香音は、響のことをよく知っていた。
「あなたは再葉を、またいじめるの?」
「そうじゃなくて、そうじゃないの」
「いじめていたくせに」
「それは、今では……少し」
響の中でも、変化があった。
「あたしのせいで、再葉がタワーから飛び降りたのなら、あたしが謝る。
一生償ってでも、あたしは謝るから。
だから健斗に、再葉を返してあげて!」
それは、響の涙から出た声だ。
響は、ずっと罪を考えていた。
いじめを続けていた響は、再葉に罪を感じていた。
それは、高校に入っても少し後ろめたい気持ちがあった。
だけど本人を目の前に、響はそれを表せない。
そんな響の思いを聞いても、香音は冷静な顔を見せていた。
「再葉は、あなたに返せない」
「わかっている」
「だけど、再葉は死んでいないわ」
「え?」俺は香音の言葉に、戸惑っていた。




