057
俺はこの質問を何度もためらっていた。
再葉は病気だ、原因不明の発作を抱えている。
夜の十一時ごろに、その発作は突然行われていて変な弓で治せるものだ。
最近はその弓を俺もうまく使いこなせる自分がいるのが、不思議なものだが。
「俺は、どうしてこの一年なのかわからない。
四月でもなく始まりは、六月だし。
六月は、雨が降りやすい中途半端な時期だとは思うし」
「ええ、そうでしょうね。でも私は病です」
「あの発作はなんだ?」
「ただの病です。不治というか……やっぱり治らないので不治ですね。
ただ、治すためにあなたと今日別れる必要があります」
「どういう意味だよ?最後に教えてくれるって、言っていなかったか?」
「そうですね、私が病を治すために……今日はあなたと別れます」
「どうしてだよ?」
「不治の病を治しにいきますから」
「どこか、病院にでも入るのか?」
「そうですね、そんなところです。だけどそのあとが大切なのです」
そういいながら、再葉は座席の隣にいる俺の手をつかんできた。
「この病の後、私は私でなくなります。
その時の私に、あなたは声をかけてほしい。
あなたを利用しているようで、私は心苦しいのだけど」
「何を言っている、俺は再葉を忘れない。
今日もいい日にする、いやそんな運命から俺は再葉を失ったりしない」
「それはとても……うれしいな」
再葉は俺に、恥じらいながらも微笑んでいた。
彼女の本当の笑顔を、俺は初めて見たような気がした。
「ああ、俺はいつまでも再葉といたいからな」
「うん、健斗。私も」
そういいながら自然と、俺と再葉が見つめていた。
俺と再葉の顔が、唇が重なろうとする。
だけど、それを阻んだのは再葉だ。
「ごめんね、そのキスは最後に取っておきたいから」
俺を突き放した再葉は、真っ赤な顔で俺に人差し指を立てていた。
そこにいた俺は、まだ知らなかった。
数時間後に、再葉がタワーの上から飛び降りたのだということを――




