038
馬走 香音は、よくわからない女子だ。
中学の時、一年間だけ同じクラスだったことがある。
クラスの中では浮いていて、休み時間になるとすぐに教室を出ていく。
今思うと、再葉のところに行っていたのだろうな。香音もまた友達が少ないのだ。
この香音もまた、小学校の時に転校してきた。
「再葉の敵?いじめっ子とか」
「そうね、それも敵」
「あとは何がある?」
「だけど、あなたには教えられない」
「教えないって、なんでだよ?」
「再葉のいる場所は、あなたのいる世界と違うから……」
「意味が分からない」
「知らなくていい」
会話が全くかみ合わない。
香音の言葉に、なんだか俺が一人だけ疎外されているような気がした。
「どうして、俺に教えない」
「再葉だって、教えない。あなたを巻き込みたくないから」
「じゃあ、なんで俺を彼氏にした?」
「あなたを彼氏にしないと、再葉が壊れるから」
「ふざけるな、俺はそんな便利な道具なんかじゃない!」
俺の言葉を、真剣な顔で香音が聞いていた。
怒った俺はすぐに、冷静な態度に戻る。
「それでも、あなたが好きなことは本物よ」
「再葉の気持ちはわかるが、俺の気持ちは」
「あなたはどうなの?」
「わからない」
初めは恐怖というか、疑問の存在でしかなかった。
あの出来事もあって、再葉のことを警戒するのは当然だ。
だけど、それでも再葉は普通にかわいい。
けなげで、穏やかで、まっすぐな少女だ。
いろいろあったけど、俺は再葉に心が惹かれ始めているのもまた事実だ。
「俺は……もっと再葉のことを知りたいんだ」
「それは、再葉が望まない限りできない」
「……だよな」
再葉は、何かに巻き込まれている。
再葉の裏で、何かが起きている。
俺は、どうしてもそれが知りたい。
いや、知らないとまともに付き合えない。そんな気がした。
「香音、俺は再葉の何を知っているのだろうか?」
「ケンは、今の再葉を愛してくれればいい。
それだけで再葉は、救われるから」
香音はそういいながら、ゆっくり立ち上がった。
そのまま、俺を置いて背を向けて立ち去っていく。
「あなたには感謝している」
「え?」香音はそう言い残し、俺から離れていった。
テーブルに一人残った俺は、難しい顔を見せた。
やはり、再葉には秘密が多い。その秘密は香音には話せても、彼氏の俺には話せない。
一体、何を隠しているのだろうか。
だけど俺と香音のやり取りをある女に見られているのを、その時の俺はまだ知らなかった。




