034
その若葉は、背中に大きな弓を背負っていた。
何やら物々しい顔で、俺の部屋にいきなりやってきたのだ。
若葉は、再葉を見るなり悲しげな顔を見せる。
「あなたはどう思うの?」
「え?」
「再葉のこと」
そういいながら、若葉は弓を構えていた。
弓を構えた先は、再葉がいる。
暴れている赤い目の再葉は、苦しんでいるようにも見えた。
「あなたの本音が聞きたいわ」
そういいながら弓を構えると、何もない弓の中に光が収束する。
光が集まって、それは一本の矢の形に変わっていく。
「本音って」
俺が問いただした瞬間、若葉が矢を放つ。
その矢はまっすぐに、再葉に向かって飛んでいく。
動いている再葉は、矢に反応したがそのまま矢が再葉の額に命中した。
「ううっ、ああっ!」
再葉は額に矢が刺さって、叫び声をあげる。
そのまま、うずくまって倒れた再葉。
無言で若葉は弓を構えるのをやめて、背中に背負う。
「再葉に対する思いよ」
「俺が再葉に対する思い……とは?」
「何度も言わせないで、あなたが再葉を好きかどうかよ!」
振り返った若葉は、悔しそうな顔で俺を見ていた。
いや、睨んでいるようにさえ見えた。
その顔は、俺をはっきり見ていた。
「こんな再葉を見て、あなたはどう思うの?」
「どうって、これは一体なんだ?」
「再葉は病にかかっているの。夜中に発作が起こる病。今の科学では治らない、不治の病」
「科学ねえ」俺は首をひねっていた。
それは、むしろ医療というべきものなのではないのだろうか。
弓を背負った若葉は、倒れた再葉のそばにしゃがみ込む。
「だいたい、それはなんだ?弓のようだけど」
「彤弓よ」
「彤弓?なんだ、それは?」
「簡単に言えば、再葉の病を治す道具」
「そんな弓が、どうして?」
「科学では説明ができないことよ」
再葉は倒れている再葉の髪を、やさしくなでていた。
「再葉の存在も、この弓も説明はつかない。
それは普通の科学ではありえない存在だから」
「意味が分からないけど……なんだオカルトとか?」
「まあ、そうね。オカルト……意味的には合っているわ。
あなたにとって、再葉のこれはまさにオカルトと言っていい」
「そうか」
「そんな再葉を、あなたは愛せる?」
しゃがんだ若葉は、俺の方をしっかり見ていた。
澄んだ目で、俺に静かに問いただしていた。
「愛せるって?」
「再葉は普通ではないけど、再葉の愛は本物なの。
だから、あなたにはしっかりとした覚悟を持ってほしい」
「だけど……」
「そうね、あなたに脅しを言うのはお門違いね。
ごめんなさい、一年間だけでも再葉を愛してあげて」
若葉は、残念そうな顔でゆっくり立ち上がった。
その若葉は、意識のない再葉を担ぐように抱きかかえていた。




