033
それは、はっきりとわかった。
再葉の殺気を、俺に向けられているようだった。
俺の部屋で、突然暴れ始めた再葉。華奢に見える再葉の体に、どこにそんな力があるのだろうか。
万力で締め上げられるかのような強い力で、俺は顔をゆがめていた。
「い、痛いって」
「……」再葉は俺の言葉に反応がない。
俺の声が、届いていないのだろうか。
「離してくれって、再葉」
「……」返事はないけど、俺の肩を離した。
そのまま、再葉は俺の後ろに下がっていた。
「いやっ!健斗を」一瞬だけいつもの再葉に戻った気がした。
「再葉、大丈夫か?」
だけど、次の瞬間再葉の右手が自分の頬を強く殴った。
突然、自分を傷つけ始めた。
「再葉、落ち着けって」
俺は慌てて再葉を止めに入ろうとした。
だけど、俺の足が動かない。震えて力が入らないのだ。
「殺してはダメ、殺してはダメ」
「再葉、どうした?」
「殺してはダメ、殺してはダメ」
再葉がずっとつぶやいていた。まるで自分を戒めるかのように。
(なんだよ、これ)
頭の中で、何が起きているのか理解できない。
ただ、目の前で彼女が暴れて自分の体を傷つけていた。
自分を殴ったり、つねったり、それは異様な光景だ。
「ううっ、ああっ!」
再葉の呼吸が激しくなる。だけど、それを俺は見守ることしかできなかった。
怖さが勝って、俺は何もできない。
それでも自分を傷つけている再葉は、とにかく怖かった。
(どうしてこんなことをする)
再葉の腕や足が、傷だらけになる。
呼吸が乱れて、血があちこちに散っていた。
苦しそうな顔で、それでも自分の体を傷つける再葉。
彼氏として、俺は何もできない無力感だけを思い知らされる時間。
(どうしたらいい)俺は何もできない。
恐怖と震えが、俺をずっと支配していた。
だけど、そんな時だった。
俺の家に、突然一人の人間が踏み込んできた。
そのまま、まっすぐ俺の部屋に来ていた。
俺の部屋に踏み込んできたのは、一人の女。
それは若葉だ、若葉が部屋にやってきて、一分もしないうちに再葉は静かに倒れた。
俺はそんな再葉の背中を、体を震わせながら見ているしかできなかった。




