031
香音の言葉は、夜には現実になった。
俺の部屋には今、再葉がいたのだから。
六畳ほどの狭い部屋を、今は一人で使っている。
シンプルな部屋は、テーブルとベッド。
それから漫画がたくさんの本棚が置かれている。残念ながらテレビやパソコンは、置かれていない。
「男子のにおいですね」
「ああ、そんなに匂うかな?一応消臭スプレーかけたけど」
俺と再葉は、テーブルをはさんで座っていた。
ジャージ姿の俺と、青いワンピースの再葉。
家でデートか、俺が再葉を入れるのは初めてだ。
「健斗の家は、普通ね」
「何を期待している?言っておくが、いくら探してもブツはないぞ」
「ブツ?」再葉はピンと来ていないようだ。
まあ、そのあたりは鈍感で助かる。
前に響や恵理那を入れたとき、俺がトイレに行くといろいろ探し始めていたし。
「それにしても、健斗の家は母親だけですね」
「俺の母親は、仕事が朝早いから」
「父親は?」
「単身赴任で、今頃東京じゃないかな」
「東京ですか?」再葉は俺の家族に興味を示していた。
「ああ、再葉は東京に行ったことがあるか?」
「はい、何度かは」
「そうか……」なんだろうか、二人きりで話すのは緊張する。
普段は教室の喧騒や、周りが騒がしい中で話すのは慣れている。
だけど二人きりで、静かな中での会話は変な空気になる。
はっきり言って緊張感しかない。
「今、風呂を沸かしているから」
「そうですか」俺の言葉に、再葉がぎこちなく答えた。
再葉のそばには、大きなバッグが置かれていた。
「体育祭、疲れたか?」
「うん、ごめんなさい」
「謝るなよ、まあクラスは残念だったけど」
「本郷君も、大変でしたね」
「実行委員だし。最後の会議も大変だったよ」
俺は肩をグルグル回していた。
「若葉さんは、今は家にいるのか?」
「はい、何かあったらすぐに飛んできますから。約束は守っていますよね」
「カギを開けるのか。家の鍵は開いていると思う。
それは頼もしい、同じマンションだしって俺はそんなことしない」
「そうですよね、健斗は」
「なんだよ、再葉」
俺は少し照れた顔を見せた。
再葉は、俺を上目遣いで見ていた。
「今日は、一緒に寝てくれますか?」
「は?」
「ベッドは一つだし」
「ベッドは再葉だよ、俺は下に布団でも敷くから」
「一緒に寝てほしい。私、いつも眠るときの記憶がないの」
「どういう意味だ?まさか酒を飲んでいるとかじゃないだろうな?」
俺は冗談で、そんなことを口にした。
それでも、再葉の表情はとても重苦しい。
だけど、そんななかでピーっと高い音が聞こえた。
「風呂が沸いたぞ、先に入れよ」
「うん、健斗」そういいながら、ゆっくりと立ち上がった再葉。
そのまま、再葉はカバンの中を探ってタオルを取り出そうとした。
何気なく見ていた俺だけど、次の瞬間再葉のカバンから一枚のシャツが出てきた。
「あっ、これは」
「なんだよ、それ」
それは白い普通のシャツだ。
だけどそのシャツは、胸のあたりが血で染まっていた。




