030
俺はその女を知っている。
3組の女子で、俺と同じ中学だった女子。
険しい顔で飛鳥と再葉の前に来るなり、強引に二人の仲を引き離す。
「離れなさい」
「あ、香音」
そう、彼女の名は馬走 香音だ。
再葉の唯一無二の親友で、俺も知っている女子だ。
かわいらしい顔をしている香音は、青い目で飛鳥を睨んでいた。
「君は?」すぐに聞いてくる飛鳥。
「香音は香音よ。再葉の彼氏です」
そしていつも通り謎の言葉で、飛鳥に言い返してきた。
「彼氏、ケンタのほかにいるのシジー?」
「えっ、あの……」
「香音は女性の彼氏です」
なんだか意味不明なことを言っているな、香音は。
飛鳥は、すぐに香音の手をつかんだ。
「よろしくね、シジーの彼氏さん。ボクは用宗 飛鳥」
そういいながら、飛鳥は香音に手を伸ばした。
だけど香音はすぐに手を払って、再葉のことを抱きしめていた。
「再葉、もう心配しなくていいの」
「香音……用宗さんは……」
「ううん、再葉。香音をちゃんと見て」
香音が、すっかり再葉と向き合っていた。
どうやら、香音は再葉のことが大好きらしい。
俺が彼氏になった時から、急にネチネチと嫌がらせをされたのだが。
「あんたは、まだ彼氏として認めていないから」
すっかり、香音は俺のことを恋敵だと思っている。
そんな中、恵理那が声をかけてきた。
「用宗さん、こっちを手伝って」
呼ばれたのは飛鳥だ。
クラスでも人望のある飛鳥が呼ばれて、「じゃっ」と一言言って猛スピードで俺らから離れていった。
そのまま、恵理那の方に走っていく。やはり早いな。
俺は仕事……というかみんなの仕事ぶりを眺めていた。
俺は片付けが終わってから、実行委員の仕事が残っているのだが。
そんな俺のそばでは、相変わらず香音が再葉といちゃついていた。
「香音、そっちのクラスは終わったのか?」
「いえ、まだ」
「まだって、クラスでは片付けするのが」
「再葉が、ほかの女子に襲われていて……いてもたってもいられないから」
「そういうのじゃないだろ」
再葉に抱きついている香音は、堂々と自分の欲望を言う。
本当に、香音は再葉が好きなのは伝わるが。
「それに再葉はとっても弱いの。
はかなくて、小さくて、とても脆い。
再葉は、香音がいないと壊れちゃう。本当は、彼氏は二人もいらないけど」
「香音、ありがと」
再葉が、抱き着いていた香音に感謝していた。
お団子ヘアーの長い髪を優しくなでると、香音はとろけたような顔を見せていた。
「うみゅ~」
「変な声出すな、香音」
「いいの、再葉は……」俺に突っ込むときは、青い目を険しくする香音。
香音は、再葉に甘えているようにさえ見えた。
「それより話を聞かせてもらったわ」
「何をだ?」
「再葉の秘密、知りたくない?」
香音が怪しい顔で、俺に言ってきた。
青い香音の目は、どこか物寂しそうな目にも見えた。
「秘密?」
「香音は……本当は嫌なんだけど、まあ……仕方ないっていうか。
上からの指示っていうか……そういうもので……」
「なんだよ、歯切れが悪いぞ。香音」
「明日学校休みだから……再葉、健斗の家に泊まりに行ったら?」
「え?」
それは香音が、不満そうな顔で再葉に言っていた。
その言葉には、香音の意志が反映されていないようにも思えた。




