029
俺の前では再葉がいる。
再葉のそばには、飛鳥がいる。
飛鳥は、再葉の腕をつまみながらも心配そうな顔を見せていた。
「ただのケガです。家で転んじゃって」
「本当に?肩や足だよ」
「うん、ただのケガ。二人とも、心配させてごめんね」
再葉は、俺と飛鳥に笑顔を見せていた。
それでも俺は、再葉の言葉を信用していない。疑惑の目を向けたままだ。
「まあ、シジーがそう言うならボクは信じるよ」
「はい」
「健斗は信じてくれる?」
「まあ、本人がそう言うなら」
不信感は残るものの、ここはこれ以上聞くのをやめた。
どうやら本人は、しゃべる気がないのだから。
「それにしてもシジーは、もう少し足のばねを使った方がいいよ」
「飛鳥さん?」
「走り方がね、ちょっと気になったんだ。
フォームはそんなに悪くないけど、なんか走りに躍動感がないというか」
「躍動感?」
「うん、走るというよりジャンプする感じかな。
前に体を押し出すように、こうやってジャンプするように……前に出る」
そういいながら、飛鳥が再葉の前で走り方をレクチャーし始めた。
再葉は、何となく飛鳥の方を見ていた。
「走り方は飛ぶ感じですか?」
「そうそう、早く走れるようになれば楽しいよ」
「え……うん。こう、ですか?」
再葉が、飛鳥の前で走ってみる。
すると、飛鳥が首を横に振っていた。
「もうちょっと斜め前に飛ぶ感じで……こう」
「はい、こうですか?」
「そうそう……いいね。シジーは、意外と足が長いからもっと早く走れるよ。
今度はビリにならないと思う」
無邪気にはにかんで笑って見せる飛鳥。
俺の前にいる飛鳥の話を、再葉もしっかりと聞いていた。
「もうちょっと、おしりを挙げて」
「あっ!」飛鳥が、再葉のおしりを触っていた。
再葉は、思わずかわいく声をあげてしまう。
他人の体を触るのが好きな飛鳥は、半ズボンの再葉の尻を持ち上げる。
「跳ねるような感じ、お尻がいい感じだよ」
「ちょっと、くすぐったい」
「ほら、もっと上げて」
「ああっ!」
今度は飛鳥が、再葉の右太ももをつかんできた。
俺の目の前で、飛鳥が再葉に走り方を教えている。
流石は陸上日本チャンピオンの飛鳥だ、手取り足取りしっかり教えていた。
ただ、それがわからないと女子二人でじゃれあっているようにも見えるが。
「ももはもっと上げて……そんな感じ。跳ねるように」
「は、はい……」
「ちょっとやめなさい!」
突然、飛鳥と再葉の俺に一人の女子が割り込んできた。
金髪の長い髪に両側にお団子ヘアーの女が、体操着姿で現れた。
かわいい顔の女は、険しい顔で指をさしていた。




