026
俺のところには、飛鳥が取り残された。
この飛鳥と知り合ったのは、高校に入ってからだ。
最も、飛鳥は静岡市から来ているので、通学路が一緒になることはない。
クラスでも、女子から人気のある飛鳥。少々子供っぽく無邪気なところがある。
それでありながら、なぜか最近は俺にしがみつくのが好きなようだ。
「ケンタ、おもしろーい」
「何が面白いんだか」
「ケンタは、すぐ疲れた顔をする」
「そうか?」たまに自分の顔を鏡で見るけど、そんな風に感じなかったな。
「ケンタは、今日は走らないの?」
「体育祭実行委員は、走らない。そもそも競技に参加しない」
それが、俺が体育祭実行委員をやっている理由でもある。
実行委員になると、競技が免除される。
取り立てて運動は苦手ではないが、参加するのが単に面倒だから委員をしているだけだ。
「そっか、残念。走った方が楽しいよ」
「飛鳥は、早いからな」
「ねえ、あの子も早いの?」
「あの子?」
「ボク、聞いたよ。ケンタの彼女。ほら、そこにいる」
それは、すでにスタート前に移動していた体操服姿の再葉。
飛鳥が不思議そうな顔で、再葉を見ていた。
「ああ、彼女な。再葉はどうだったかな?」
そういえば、再葉が走るところを見たことがない。
中学最後の運動会は……走っていなかったような。
少し離れた席に一人でいる再葉が、こわばった顔を見せていた。
緊張というか、青ざめた顔で具合が悪そうにさえ見えた。
「ボクより早くないと、認めたくないな」
「お前より早い女子高生、日本国内で探しても片手で数えるしかいないだろ」
「まあ、そうだね」
「それに、飛鳥が認めなくても俺の彼女には関係ない。
俺は愛があれば……彼女にする」
「それは一番だね、ケンタ」飛鳥が俺から離れていた。
「ねえ、ケンタはあの子に愛があるの?」
「俺は……そうだな」
「愛がない恋愛は、絶対に続かないよ」
飛鳥が言う鋭い言葉に、俺は戸惑いがあった。
今までの成り行きは、確かに俺が流された部分がある。
その部分はとても強くて、そこに愛があったか疑問だ。
俺は再葉を愛していたのか、今も愛しているのか。
「飛鳥……」
「ああ、ごめんごめん。ボクも出番だね」
そういいながら飛鳥は、俺から離れて走っていった。
クラスの周りの女子たちも、立ち上がっている。
彼女たちの奥には、一人の女子の実行委員の姿がった。
まもなく女子百メートルが始まるので、移動が始まるのだろうか。
男子で委員の俺は、参加できないから一人でその光景を眺めているしかない。
そんな中で、俺の視界に入ってきた二人組がいた。
「本郷、元気か?」一人は小さな女の子、美来だ。
そして、美来の隣には紺のスーツを着ている女若葉の姿もあった。




