022
公園には、相変わらず俺と再葉しかいない。
道路を歩いていた女子中学生は、ただ公園のそばを通り過ぎていた。
キスをした俺は、まだ胸がどきどきしていた。
冷めている再葉とは、少し温度差があった。
「再葉は、転校してきたんだよな?」
「はい、中二の時に」
「そうか」響きの話の言う通りだ。
同じマンションなら、小学校の時からどこかで顔を合わせても不思議ではない。
だけど、それがなかったのは納得できた。
「でも、中学の時は同じクラスにならなかったよな。二年の時はA組じゃないだろ」
「Cです」
「三年は?」
「Dです」
あれ、このクラス……誰かと同じような気がする。
何人かの知り合いを、思い出して俺は何人かの候補を出してみた。
「二年の時、大村と一緒か?大村 美穂子」
「いえ、知りません」
「じゃあ三年の時、櫛引とは?櫛引 杏」
「わかりません」
「あとは、二年の時に馬走 香音とか」
「馬走さんは、知っています」
ああ、そうだった。馬走とは再葉は知り合いだ。
俺も、再葉のことは香音から聞いたんだよな。
中学の時から知り合いだとは言っていたし、馬走も小学校の途中から転校してきたからな。
「あとは……そうだ三年の時に松原 響はいなかったか?」
「松原 響……いやっ!」
その名前を聞いた瞬間、叫んでしゃがみこんだ。
再葉は体を震わせて、怯えているようにも見えた。
「再葉、どうした?」
「私、いじめられていたんです。松原さんに」
「え?」俺は驚いた顔を見せた。
「覚えていますか?二学期の、九月の自習の日」
「三年の……二学期の自習?九月?」
「そう、二学期の自習のある日、私はD組にいました」
「あっ、隣のクラスがうるさかったあの日か」俺にも、心当たりがあった。
九月の自習日は、インターハイで学校の授業は午前中が全部自習になっていた。
「そう、それです」
「確かある自習時間の日、隣のクラスがうるさくて……先生に苦情を言ったっな……」
「そうです、あの時はありがとうございました」
なぜか再葉は、俺に深々と頭を下げてきた。
その再葉に、俺は理解できなかった。
「どういうことだ?」
「私は、あの時教室の中でいじめられていたのです」
「いじめ?どういう意味だ?」
「松原さんがグループの中心にいて、私を公開いじめしていたんです。
私を殴ったり、けったり、つねったり。松原さんはリーダーで、中央にいて……
周りの男子はみんな面白がって、松原さんに同調して……」
「マジかよ、なんてことだ!」
俺はあの日隣のクラスで起きていたことを、初めて知った。
それは友達がやっていた、裏でのいじめだ。
「私は、弱気で、根暗で、どうしようもない人です。
だから、みんなからいじめられるのは当然で……」
「なんだよ、それ!再葉は、響に何かをしたのか?」
「私は……いるだけで不幸になります。みんなが……」
「そんなのどうでもいい、再葉は何か嫌がることを響にしたのか?」
「私は……その……」
「心当たりがないんだろ?」
俺は再葉のことは、理解していた。
強引で、思いが強いところもあるけど再葉は寂しがり屋で弱い存在だ。
いつも一人ぼっちで、弱い再葉を響がいじめていることが単純に許せなかった。
「響……あいつ」
俺はさすがに怒りを隠せなかった。
「でも、健斗……ほかの女子と仲良く」
「ああ、それはもちろんだ。
だけど、人が人を傷つけていいわけがない」
「本郷君?」
「響にいじめられたら俺に言えよ、俺が守ってやるから」
俺はしっかりとした顔で、再葉に言っていた。
そんな俺の顔を、頼もしそうに再葉は見ていた。




