021
それは、近所にある小さな公園だ。
学校帰りの放課後、俺はいつものブレザー姿で歩いていた。
公園のすぐそばには俺たちが住んでいるマンションが、見えていた。
マンションの近くにある公園には、小さな子供が好きそうな遊具が置かれていた。
だけど遊具がさびていて、あまり遊ばれている様子はない。
もちろん人はいない、近くに道路があるだけだ。
「今日はここでいいのか?」
「はい、ここで今日はデートです」
俺の隣で、笑顔で言ってきた再葉。
だけど俺は、時計をじっと見ていた。
公園にある時計の針は、四時ちょうどを指していた。
「これが運命のデート場所ということか?」
「そうですね、今日は十日目記念日ですから」
再葉の胸ポケットは、少し膨らんでいた。
いつも彼女が大事に持つメモ帳があるのだろう。
浜名湖の一件以来、再葉はメモ帳を身につけるようになっていた。
「再葉は、学校ではおとなしいよな」
「私は、学校だと自分を表現するのが難しいです」
「クラスでは、ほかの女子と話をしないのか」
「はい」再葉は素直に答えた。
クラスで再葉は、一人でいつもいる。
近くのクラスに、中学から知り合いの香音はいるがそれ以外の女子はもちろん男子とも群れることはしない。
「そうか、もう少し他の女子とも話をした方が」
「いいんです!」
そこは強く否定した。再葉は、胸を押さえて俺の方をしっかり向いていた。
「私が嫌われているのは、わかっているから」
「だけど、喧嘩はあまりしてほしくないな。
俺は再葉が言う通り、仲のいい女子が多い。
だけど、そいつらと喧嘩をするのはよくない」
「わかっています」
「そうか、ならいいんだ」
「ねえ、その代わりだけど……」
「どうした?」再葉はモジモジとしている。
俺は、再葉の言葉を待っていた。
「今日は十日目だから、その……」
だんだんと顔が赤くなり、小さな体が震えているようにも見えた。
「再葉?」
「記念日だから……その……」
「何かしたいのか?」
「キス」
いきなり、唐突に短い単語を言ってきた。
再葉の顔が真っ赤で、あたふたしている表情が見えた。
その単語を聞いて、俺も思わずほほが赤くなった。
「マジ?」
「その……軽くでいいから」
「ああ、そういうことか。ほほとか、デコとかでいいのか?」
「うん」そういいながら、すでに目をつぶっていた再葉。
そのまま、俺のキスを待つような仕草じゃないか。
そんな俺も、照れくさそうに再葉を見ていた。
「じゃ、じゃあやるぞ」
俺の言葉に、再葉は無言で頭を縦に振った。
俺の前で、再葉の顔が近づく。いい香りだ、香水でもかけているのだろうか。
それとも、これが再葉の匂いなのだろうか。
ほのかに、甘い香りが優しく俺の鼻を包む。
そして、俺はキスをした。
やはり俺は、臆病者だ。
再葉の右ほほに、俺はキスをしていた。
「健斗……」
「や、やったからな」
「うん」目を開けた再葉は、しっかりと俺を見ていた。
大きな瞳で俺を見て、右ほほを優しくさすっていた。
「ありがとう、健斗。うれしい」
「そ、そうか」
だけど、俺は再葉の顔を直視できないでいた。
そんな俺のいる公園のそばにある道路に、偶然見えたのは俺が去年まで通っていた中学の制服を着た女子生徒だ。
俺らに気づいたわけではなく、ただ道を歩いていた。
「あ、再葉」
「なに?」
「再葉は、アレを着ていたんだよな?」
俺が指さすのは、女子生徒だ。
「中学生ですね」
「再葉は俺のことを中学から知っていたのか?」
「はい、その中学で本郷君が私を助けてくれましたから」
赤かった顔が、すっかり冷めていた再葉は俺をしっかり見ていた。




