表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
一年彼女  作者: 葉月 優奈
一話:一年彼女と出会いの日
2/161

002

――去年のこの日は、雨が降っていた。

駅近くにある飲食店の看板は、『二千二十年六月二日午後三時十五分』と表示されていた。

気象庁から、今朝梅雨入り宣言が発表されたらしい。

ネットニュースで、そんなことをやっていたな。


強い雨が降る中、俺……『本郷 健斗』は学校からの帰りだった。

掛川に住んでいる普通の男子高校生、それが俺だ。

何か特別な能力もないが、一つだけ夢がある。そんなどこにでもいる高校生だ。


掛川市内の商店街は、突然降った雨で今日はとても静かだ。

親の世代では活気もあったのだけど、今はシャッターが目立つ商店街。


シャッター商店街で、深緑のブレザーを着て通学カバンを持った俺は雨宿りをしていた。

駅から帰る途中で、大雨に遭遇してしまった。

俺はシャッター商店街の米屋の軒先で、足止めを食ってしまった。


「傘がないな」

今日は降水確率10%ということで、俺は傘を持ってこなかった。

だが、予想が外れてしかも大雨が降るという最悪の結果になってしまった。

降り出した雨は、どんどん強くなる。


(とりあえず小降りになったら、あとは走って帰るか)

この商店街から少し離れたところに、高いマンションが見えていた。

そこが俺の家だ。そこまでの時間は、走って十分弱だろうか。


だが、雨はさらに強くなっていた。

空の雨雲は、灰色がどんどん濃くなっていく。


(これは雨が、強くなっていくパターンか)

俺は空を、恨めしそうに見上げていた。

しかも、雨が降ってから人通りも全然ない。


(これはまいったな、当分ここから動けないぞ)

俺は雨を眺めていると、米屋の軒先に一人の人間がゆっくり近づいていた。

俺と同じ学校の水色ブレザー型の制服、下はスカートだ。

長い髪に、少し童顔で大きな目が特徴の女の子。

そんな女の子が、黒い傘をさしたままこっちに向かってきた。


(あいつは……確か同じクラスの……)

俺は隣に歩いてきた女を見ると、彼女の手には濡れた傘があった。

軒下に入った女は、傘をブルブル振るって水を払う。

そんな彼女の方になんとなく視線を送ると、彼女も俺の方を見ていた。


「雨宿り……しているの?本郷君?」

少し、たどたどしいしゃべり方だ。照れているのだろうか。

「ああ、激しい雨が降ってきたからな。四十万(しじま)は?」

そう、女の名前は四十万 再葉。

同じ高校で、同じクラスの女子だ。

家もこの掛川で、わりと近所らしい。出身中学も同じなのは何となく知っていた。


だけど、今までそんなに仲良く接してきた覚えはない。

そもそも、中学が同じという話も高校になって知ったぐらいだ。

あまりにも、影の薄い女子だ。


「私は……あなたとちゃんと話をしたかったの。本郷君」

少し髪が、雨に濡れていた。俺の方を向いて、笑顔を見せていた。


「俺に?」

「そう……だけど」なんだか、照れているのかぎこちない四十万。

俺は照れている四十万を、じっと見ていた。


「どうした?」

「雨がすごいよね?」

四十万が軒先から見ている雨は、確かに強い。


「ああ、全く雨が止む気がしない。まだ家まで距離があるんだけどな」

「この傘に……」

「この傘って……入るのか?」

「えっ、あと……違う。相合い傘じゃなくて」

なぜか、そこは全力で否定する四十万。

少しそのしぐさが、かわいく見える。

あまり男子とは、話をしていないのだろうか。


「この傘、あげる」

「え?」濡れた傘を、俺にいきなり差し出した四十万。

その顔は、とても赤かった。まるで熱でもあるかのようだ。


「熱でもあるのか?風邪か?」

「違う……傘を、あげるから!」

「え?でもその顔だと」

「いいから!本郷君!」

そういいながら、四十万は俺から逃げるように雨の中を走っていった。

雨は相変わらず強く降っていた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ