019
土曜日の午後は、俺にはいく場所があった。
それは掛川郊外にあるモールの、ファーストフード店。
有名チェーン店で、俺は厨房アルバイトをしていた。
後ろの厨房は、三時ごろになると一気に忙しくなる。
お茶をする中高生や主婦が、集まってくるからだ。二度目のピークである。
「こっち、今度注文!ナゲット、揚がっている!」
「カウンター、接客に立って」
「ポテト、まだ?」
叫びのような声が、いくつも聞こえていた。ここは戦場なのだ。
俺の周りでは、俺と同じように大人の店員が働いている。
俺も、忙しそうに動き回っていた。
三時台という地獄の戦場を抜け、四時半になるころ俺はようやく忙しさから解放された。
「ケン、休憩行ってきていいぞ」
厨房を仕切るバイトリーダーの一声で、トレーにまかないのバーガーを持ったまま俺は奥の休憩所に来ていた。
六畳ほどの狭い休憩所は、真ん中に長テーブルが置かれている。
部屋の隅には、デスクとパソコン。
長テーブルに、パイプ椅子が六つ置かれていた。
その休憩所には、先客がいた。
「ああ、響か」
そこにはファーストフードの制服を着ていた女がいた。
短いポニーテール、ゴムバンドで縛り、少し日に焼けた女。
やや大人びていて、背も女子だけど俺とほとんど変わらない。
彼女の名は、松原 響。俺と同じ高一のアルバイトだ。
「そうね、ケン」ハンバーガーを、静かに食べる響。
「今日はバイト、何時までだ?」
「夜八時まで」
「そうか、七時間か。結構稼ぐな」
「やることなくなったから」
「まあ、そうだよな」響の制服の半そでから、右肩当たりにテーピングが見えた。
俺は響と向き合うように、座っていた。
「まだ、痛むのか?」
「もう大丈夫、運動さえしなければ」
「ソフトボールのエースだったからな」
「過去の話よ。もう続けるつもりもないから」
響は、中学までソフトボール部だ。
中三の時はエースで、四番でキャプテンというまさに大黒柱。
中三最後の県大会で、響の頑張りもあって決勝まで進んだ。
だけど、決勝で肩を故障してそのまま部活をやめた。
俺は響と同じ中学だったし、小学校も一緒だった。
子供のころは、一緒に野球もしていたが、響にはかなわなかった。
そもそも、小学校の時から響はすごい球を投げてくるから。
「でも、まさか俺と同じ高校に来るとはな。
静岡市のソフト強豪の学校からも、誘いが来ていたんだろ」
「地元の方が落ち着くし、今の生活には満足しているわ」
「そうか」
「それに、ここのバイトもいいしね」
「響の接客は評判がいいって、バイトリーダーも言っていたし」
「そう?うれしいわ」
素直に無邪気に笑って見せた響。
健康的な響は、かわいらしくて人懐っこい。
輪の中心に、響がいて話をまとめるのも得意だ。
「ねえ、ケン」
「なんだ?」
「四十万 再葉の彼氏になったのは本当なの?」
それは、黒い影のような表情を見せて俺に言ってきた。
響のその目は、なにか冷めているように見えた。




