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一年彼女は、再葉のけじめだったのかもしれない。
それは記憶を失うではなく、記憶を封じてあの世に旅立とうとしていたのだろうか。
そこまで再葉は、追い詰められていたのだろうか。
周りには、まだ俺たちをチラチラ見る観光客がいた。
だけど、そんなことも気にならない俺と再葉の空気があった。
「表の裏の世界、私は世界の違いに驚かされた。
それは、私が生きていていいのかと思えるほどだ。
若葉からいろんな話を聞くまで、私は雲吞の世界しか知らなかった。
だから、外の世界で、私は自分が化け物だと知った」
それは、再葉の本当の思いだろう。
再葉の当たり前が、外の世界を知ることで違いに気づいた。
「私は、それでも死ねなかったのは……健斗がいたからね」
「俺が?」
「ええ、私はこの世界に未練はなかった。
死ぬことも、何のためらいもない。不死であり、一度死んだようなもの。
だから、なにも怖くはなかった」
「それでも俺は、再葉を絶対に死なせたりしない。
もう、再葉を一人にはしない」
「ありがと、健斗」
俺に対して、再葉がようやく笑顔を見せた。
その笑顔は、まぶしく見えた。
「だけど、私は」
そんな俺の手をすり抜けるように、再葉が突然立ち上がった。
それを俺は引き留めようと、手を伸ばす。
だけど、再葉は俺からスルリと抜けていく。
「私と一緒にいてくれて……ありがと」
「ダメだ、再葉!」
それは再葉の決意だ。
そのまま、再葉は近くの関係者用の階段に向かっていく。
その再葉を、俺は追いかけることにした。




