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ここは東京だ。
何よりそこには、再葉の好きなものがある場所だ。
東京のタワー、俺はここに約一か月ぶりに帰ってきた。
そう、そこは再葉が飛び降りた場所。
タワーのエレベーター前では、相変わらず行列ができていた。
流石は、東京屈指の観光地なだけある。
俺は再葉の手をつないで、待っていた。
「ここは……少し覚えている」
「そうか、俺は鮮明に覚えている」
ここで再葉は飛び降りて、記憶を失った。
失った再葉が、不死者である力を失いつつある。
だけど、記憶が戻らなければ再葉は死んでしまう。
「俺にとって、ここはとても辛い思い出しかない。
本当は、あの日の後も東京観光を遅くまでやりたかったんだろ」
「私は……ごめんなさい」
「気にすることはない。
だけど、この場所なら再葉が戻ると思ったんだ」
俺はここを選ぶのに、葛藤があった。
この場所は、再葉にとっても俺にとっても心に傷を残している。
特に俺は、ここで生まれて初めて絶望を感じた。
「健斗、苦しそう」
「苦しいよ、でも……」
俺はここにきて、気分がよくない。
あの絶望の場所は、見るだけで体が震える。
それはトラウマで、辛さがよみがえってくる。
だけど俺は、しっかりと再葉を見ていた。
「それでも、これは再葉のためだから」
そんな俺は、覚悟を決めていた。
自分は、再葉のために何ができるだろうか。
それは、俺の無力感があった。
「私のために……うれしい」
「ああ、一緒に見よう。この上の景色を」
そういうと、エレベーターが到着していた。
それと同時に、俺の前の列が動き出していた。




