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中本は、雲吞で育ってきていた。
それは再葉と違う人生を、送ってきた。
雲吞で育った、劣等生の不死者の中本は再葉がうらやましいのだ。
「再葉は、うらやましいの。
私には、何もあなたにかなわなかったから」
「不死者のデータだろ」
俺は知っていた。
中本が持ってきたそのデータは、不死者のもの。
数値の意味はわからないが、再葉だけ飛びぬけて優秀なのが分かった。
「それが、雲吞の中での序列だから」
「そんなもの、雲吞の中であって中本は……」
「私にはそれが全てよ。
でも、再葉はそれをも捨てて私の前から消えていった。
それが、私には許せないの」
しゃべりながらも、中本は感情的になっているようだ。
「中本、落ち着け!」
「いいえ、それはできない」
「芙蓉、ごめんなさい」
そんな中本を、抱きしめたのは再葉だ。
泣いている再葉に、中本が驚いた顔を見せた。
「そんな顔したって……」
「ごめんね、でも私はここにいたい。健斗と一緒にいたいの」
「再葉……あんた」
中本は、再葉の涙には弱い。
それだけ再葉は、誠意を見せていた。
そんな再葉の顔を、中本がじっと見ていた。
「私はあなたに、すごく妬いていたのよ。
あなたは全部持っていて、私は何もない」
「そんなことないわ、芙蓉。
あなただって、いいところはたくさんある」
「再葉……」
二人は、俺の知らない世界で結ばれた戦友だ。
再葉は、中本の頭を優しくなでていた。
「再葉……ありがとう」
「ええ、芙蓉」
再葉と中本には、いつの間にか涙がなかった。
二人とも傷を慰めあって、どこか穏やかな顔に変わっていた。
そんな二人を、俺は少し遠くで見ていた。
「健斗、ありがとね」再葉のそばにいる中本が、俺に突然声をかけた。
「ああ……」
「後はあなたの番よ」
最後に中本が、一言いい残して再葉から離れていった。
何かを、俺に託すかのように背を向けて姿を消していった。




