144
朝の公園は人が少ない。
マンションの住民が使うことの多いこの公園は、この時間は人が少ない。
静かで、ベンチもある。雰囲気は悪くない。
俺は再葉と向かい合いながら、しっかり見ていた。
「キスですか?」
「ああ、しばらくしていないだろ」
「私と……ですか?」
「ほかに誰がいる?」
この公園には、ほかに誰もいない。
大通りから少し離れた場所で、人目にもつかない。
「あの……私。まだ心の準備が」
「そうか、すまない」
「いえ……」だけど再葉は寂しそうだ。
「でも、この感情は思い出せたか?」
「何となく、ぼんやりとモヤのような、うっすらと」
再葉は、歯切れの悪い言葉でつぶやく。
彼女の中ではっきりとした感覚は、残っていないだろう。
「俺も、ここで一つ失った記憶が戻ったんだ」
「どういうこと?」
「俺はこの公園で襲われた」
「襲われた?」
「雲吞という組織を、聞いているよな」
「はい、私がかつて属していた組織ですね」
再葉は雲吞に保護されて、不死者になった。
身寄りはない、孤児だ。彼女は両親の姿さえわからない。
どこにいるのか、今生きているのか。
残念ながら、それを調べる方法は残っていなかった。
「裏の世界では、そんな身寄りのない子供に実験をして再葉から普通を奪った」
「はい、不死者です。でも、実感がありません。
もうすぐ、私は死ぬのでしょう」
「そんなことはない」
「若葉は隠している、健斗も隠している。
でも私は、なんとなくだけどわかる。
私の残された時間は、はそんなに長くないのだと」
再葉の中でも、自分の体で起きていることがわかるようだ。
それでも、俺は再葉に言わないといけない。
「俺は、絶対に再葉を救う。どんなことがあっても、再葉を救う。
そのためにも、再葉……君の心が大事なんだ」
記憶を取り戻す、それは俺ができることではない。
できるのは再葉で、俺はサポートしかできない。
再葉の記憶を戻せるのは、再葉だけなのだ。
「私の心?」
「再葉は、思い出したいんだろ。あきらめるなよ」
「健斗……私はあなたを信じていいのですか?」
「当たり前だろ、それに……」
そんな俺と再葉の二人しかいない公園に、もう一人の人間が入ってきた。
それは、制服姿の女。
「この私も、援軍として参加するのだから」
それは中本だった。




