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マンションのすぐ下に、公園がある。
小さな子の公園は、再葉とデートをした場所の一つだ。
そこを待ち合わせ場所に指定した俺は、再葉と一緒だ。
まだ待っている人間が来ないから、再葉と見ている。
朝の公園は、サラリーマンが素通りする姿が見えていた。
「ここ、覚えているか?」
「何となくは……」
「俺が再葉と初めてキスをした場所だ」
俺がそういうと、再葉は唇を押さえていた。
「そうですか?」
「覚えていないのだろうな」
「はい、ごめんなさい」再葉がしんみりとした顔を見せた。
「まあ、それならそれでもいい」
「でも、静かですね」
「もともとこのマンションは、再葉も住んでいたんだぜ。
若葉さんと美来と、三人で」
「そうですか、このマンションが」
公園から見上げるマンションは、大きく見える。
この辺りでは珍しい高層の建物だ。
「ほら、あそこ。一番上が再葉の家だったんだ」
「そうですか」
ぼんやりと見ている再葉、しばらく固まっているようだ。
「再葉?」
「あ、ごめんなさい」
「何か思い出したのか?」
「いえ……でも」
何か反応が違う。再葉の記憶が、確実に戻っては来ているのかもしれない。
だけど、それ以上に時間が迫っていた。
「再葉、もう一度キスをするか?」
そんな俺は、ここで迫っていた。




