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一年彼女  作者: 葉月 優奈
十話:一年彼女の運命の時
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このバイト先に再葉を呼んだのは、初めてではない。

だけど、再葉は興味深く店内を見ている。

レジ前には列ができていて、今日も賑わっていた。

客もいなくなった時間を見計らって、俺はレジの方に向かう。


「よお、響」

「あ、健斗……じゃなくていらっしゃいませ」

俺は、目の前の響を見ている。

その響は、マニュアル通りの接客をしていた。

だけど、視線は俺ではなくすぐに再葉を見ていた。


「再葉……どうして健斗と」

「俺の彼女だからな」

「そう」俺は再葉と肩を組んだ。

再葉のことは遠くに引っ越したという情報が流れているが、響はそのあとのことを知らない。

知る術もない、裏の世界の出来事だ。

そんな再葉は、不思議な顔で自分に興味のある響をじっと見ていた。


「再葉、覚えていないだろうけど響は、君をいじめていたんだ」

「そう」

「ごめんなさい」小さな声で、響が言う。


「なぜ、謝るのですか?」

「あたしは、あなたをいじめたのよ!」

「そう」しかし、そのいじめの記憶も再葉の中に記憶がない。

それでも響は、再葉の手を握っていた。


「ごめんなさい。あたしのせいで」

「謝られても困ります」

「だけど、あたしがいじめたから」

「響、今の再葉は記憶がない」

俺はようやく、響に話すことにした。


「記憶がない?」

「再葉は重度の記憶障害になった。

だから、学校をやめなければならなくなった。ちゃんと離せなくて」

「そう……」響はじっと再葉を見ていた。


「完全に記憶がないの?」

「だから彼女の記憶を、戻すために俺は再葉を連れまわすことにした」

「そうなのね」

「だけど、響の気持ちが本当でよかったよ」

俺は覚えていた。

香音を追いかけていた時、響が言った言葉は本当だった。


中学の罪は、高校になった今も残っている。

その罪や事実は、記憶を失っても永遠に消えないだろう。

だけど、響は変われたんだ。

そんな響を、再葉はそっと手を差し伸べた。


「大丈夫、あなたの言葉は伝わっています」

「再葉……」店の前で、響は泣いていた。

それを、再葉は優しくなだめていた。


「ごめんね、ごめんね。クラスで生きるために……仕方ないの」

「うん、うん」再葉は泣いている響を、慰めていた。

その泣き声は、店内にしばらく響いていた。



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