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俺はあの弓が、彤弓に似ているものだと思った。
それは間違いないが、色は真っ黒だ。
大きな装飾もされていて、やはり弦だけしかない弓だ。
その弓を、再葉に向けて構えていた丁。
「口惜しいのだが」
「あれは……『覇王弓』」
叫んだのは、美来だ。
俺のそばにいた美来は、驚いた顔を見せていた。
「『覇王弓』?」
「そう、彤弓が不死者をなだめる弓ならば覇王弓は、消滅させる弓」
「マジかよ」
丁は、再葉に向けて狙いをつける。
「あの弓で矢が放たれると……」
「再葉は消滅する。どうやら丁は手に負えないみたい」
「そんなこと、俺は」
俺は立ち上がった。再葉も丁に気づいたが、呆然としていた。
「再葉、離れろ!」
俺はそういいながら、丁の前に立った。
俺は嫌だ、女の子に守られるのは。
俺は嫌だ、女の子が目の前で傷つくのを。
俺は嫌だ、何もできずに怯えているのを。
だから前に出る。
再葉を守るために、手を広げて弓の前に立つ。
「その矢を受けた人間は……」
だけど俺は美来の言葉を聞く間もなく、俺の体には黒い矢が刺さった。
丁は俺を見て、驚いた顔を見せた。
「お前……人間がその矢を受けると……」
「俺はそれでも再葉を守る」
それと同時に、再葉が俺の頭の上からとびあがって丁の前に着地した。
その赤い目は、はっきりと丁を睨んでいた。
「死んで」
冷たい一言を言いながら再葉は、右足を大きく蹴り上げていた。
その蹴りは、全く見えない一撃が丁を吹き飛ばしていた。
軽々と吹き飛ばされた丁は、そのまま太い鉄筋の柱に叩きつけられていた。




