010
浜名湖を遊覧する船は、三十分の短い旅だ。
俺たちの乗るその船は、乗客がまばらだ。
六月の梅雨時期で、少し曇った平日。
乗っている客は、日本人より外国人が多い気がする。
俺と再葉は、客席ではなく甲板の方に出ていた。
曇っているが、過ごしやすい空気だ。
「いいのかよ、金を払っても」
「ここは私が払います」
遊覧チケットを買ったのは再葉だ。
高校生にとって、千円は高額なのだが再葉がためらいもなく払っていた。
「再葉って、バイトとかしているの?」
「いえ、していません」
「そうか、結構金持ちなんだな」
千円をためらいもなく簡単に支払う再葉に、俺は驚きがあった。
まあ、自宅もマンションの最上階だし金持ちでも不思議ではない。
「本郷君は……いえ健斗はバイトをしているの?」
「ああ、しているよ」
「どこですか?」
「少し離れたモール、あのゲーセンの近くにショッピングモールあるだろ。
あそこにあるバーガー屋で、バイトしている」
再葉は、俺のことに興味を持って聞いているようだ。
まあ、お互いにあまりよく知らないしイメージだけが先行しているところもある。
「バイトって、どんなことをしているの?」
「バーガーつくりとか、厨房に入っている。
まあ、簡単な料理ならできないこともないぜ」
「すごい……ね」
「再葉は、料理できないのか?」
「はい、料理は苦手で……美来の方が得意です」
「美来って、あの小さい子か?」
俺は、ゲーセンにいたあの小さい子を思い出した。
ミニツインテールで、再葉よりも童顔の女の子。
背も小さく、手も足も小さい女の子。
ちょっと生意気なところもあるが、ゲームが上手な女の子だ。手先が器用なのかもしれない。
「美来はとても優秀ですから」
「自慢の妹ってわけか?」
「妹?うん」
再葉は、笑顔で頷いて見せた。
「本郷君は、妹居るの?」
「妹よりも、姉がいる。しかも三人」
「三人も姉が?」
「家の中は女の天下だよ。まあその分、女子と話すのに抵抗がないんだけど」
「そっか、だからいつも女の子に囲まれて……」
「おいおい、そういうのはないって。
そんなに俺は、モテているわけじゃないし」
「でも、大丈夫です」
茶化していた再葉の顔が、真顔に戻っていた。
そのまま俺の方を、しっかりと見ていた。
「再葉?」
「私は、健斗を幸せにする自信があります」
いきなり、俺の名前を呼び捨てにした再葉。まあいいけど。
「どうした急に?」
「私は健斗の彼女として、幸せにします。これは運命ですから」
また再葉は、『運命』という言葉を口にしていた。




