僕は当主のフォロワーです
テンプレ的な婚約破棄にツ○○ターを混ぜた結果苦労人な従者が生まれた、そんなコメディーになります。
はっきり言ってタイトルが言いたかっただけです。
「あのバカ跡取りがあぁぁぁ!」
手もとの端末を握りしめ僕は憎らしいほど馬鹿みたいに青い空へと叫んだ。
~~~~~
失礼した。唐突だろうがとりあえず自己紹介だな。僕は蝶野忠司、鳳凰家に仕える蝶野家の息子である。鳳凰家の家長から長男の友人兼従者のお役目を承ってしまったんだ。言われたことに従わないと家がヤバいので仕方なく従っていたわけだ。
そんな僕がなんでこんなに取り乱したか説明させてほしい。僕は普段はそれなりに有能な従者をやっているんだ。取り繕うのは得意だから。ただただ、鳳凰家の長男、鳳凰龍雅が悪い。あのクソ野郎、失礼糞のようなかたがこっちの苦労も考えずに自由気ままにやらかして下さるのが原因という訳だ。
僕は龍雅と同じ学園、王蛇学園に通っている。一応友人も兼ねているので仕方なく僕には似合わないバカみたいな高級な制服と筆記用具を使って勉強している。専用の端末を一生徒に配布するんだぞ? 授業に使うからって頭おかしいだろう。ほとんど遊びに使われているし……
ちなみに今流行っているのは140字で思ったことを発信できるコミュニケーションサービスだ。僕も色々とお世話になっている。龍雅は一応イケメンに分類されるらしく女子から人気で龍雅の発言はみんな見れるようにしているらしい。通称フォロワー、まあ、僕も取り巻き的な意味で龍雅のフォロワーなんだけど。
ちなみに龍雅にはきれいでしっかりした婚約者がいて、その婚約者、花風嬢も同じ学園に通っている。ちなみに花風家の方が財力も規模も大きいので花風嬢の扱いはかなり慎重にしている。向こうはそんなことを思わせないほどに社交的な人なんだけども、まあ、社交辞令だろう。で、元々しっかりしている女子が苦手とか意味の分からないことを呟いてた龍雅に超絶アホな問題が起きた。テンプレ的に分かるんじゃないかな……
ハニトラに引っかかるなよ。腐りきってても旧家の跡取りなんだからさ……
綿飴嬢。何かと(恋愛脳的な意味で)ヤバイ噂のある家の令嬢である。家は新興で最近力をつけてきている。ただうちの実家よりも小さい。
それで、そこの綿飴嬢ははっきり言ってバカである。奨学金で通っている天才的な家の人もいるけどそういう感じでもない。家同士のバランスも考えずにイケメンの金持ちに近づき令嬢を敵視している。学園に何しに来てるんだろうか?
花風嬢が庭園のようにしっかりしているというなら綿飴嬢の方はにおいのきつい花を可愛いからという理由で植えまくった秩序のないお花畑という感じである。根腐れしてそう。
おっと、ただの悪口だった。悪口はここまでにしてあのバカは可憐な嬢が居たなどと呟き出したのだ。サービス内では大騒ぎ。上手く収めた僕はマジでよくやったと思う。で、そのトンチキなことを言いだした原因が綿飴嬢だそうな。龍雅には友達としていい眼科を紹介しようとしたが断られた、何故だ。
それからサービス内外で見張りながらもやばい時はフォローに走った。騒ぎを収める時に名前を使わせていただいた花風嬢もこのサービスを使っていると知ったときは死んだと思ったけど花風嬢はその騒ぎを知らなかった。お茶会の情報交換ぐらいしかしてないらしい。そのお茶会で教えてもらう前に知ることが出来てよかったと言っていたけど……実際は知ってそうで怖いなぁ。
まあ、その見張りの一例を紹介しよう。そしたら冒頭の僕の叫びもわかってもらえるだろうから。
『美しい君には大輪の花がふさわしいと思うのだ。ゆえに準備をしなければ』などと呟いたなら僕は龍雅に花を買わせて花風嬢にプレゼントさせた。何度不満そうな顔をするなって殴ったかなんて十を超えてからは数えてない。本当は綿飴嬢にプレゼントするのもやめてほしかったけど無理だった。馬鹿なの?と言いたい。花の大きさで区別をつけるのかと思っていたら綿飴嬢の方に大きい花を渡しやがって……
それから花は大きいけど花言葉は悪い意味の物を贈らせるように誘導した。もちろん花風嬢の方は小さいながらも綺麗で、いい意味を持つ花言葉のものを厳選した。途中からあのバカは花風嬢の方は僕に完全に任せるようになり始めていたので余計なフラグの回避のために最終的な決定は龍雅にさせた。
無駄に花言葉に詳しくなったがうれしくない。僕に花を贈るなんてロマンチックなことをする余裕もなければ趣味もないのだ。
『かわいらしく宝石をおねだりされたら用意したくなってしまう』なんて呟いたときは馬鹿なの! と言いたくなった。こっちは花風家に若干借金してるようなものなんですが、あの脳味噌空っぽ長男は分かってないらしい。高速でイミテーションを制作して準備しろと言われた直後に差し出した。「龍雅様に必要かと思いまして」なんて言って差し出せばひったくるように奪って礼も言わずに走っていった。綿飴嬢にはイミテーションだとばれて破局しろと思っていたけど両者ともに頭が悪かったらしい。結局破局はしなかった。
手先が器用だったけどそれに磨きがかかった気がする。理由が理由だからうれしくない。
ちなみにサービス内では龍雅と僕でいわゆるギャルゲーをしてたことにした。そんな趣味はないのにギャルゲー好きの称号をいただき、クラスの友人(オタク気質)から「新作ゲームのモニターのバイトがあるんだが……好きだろ?」とドヤ顔で誘われた。そんな時間はない。あ、いや、趣味はない。
『今度の休みには遊園地に誘うんだ。貸し切りにして二人の夢の国さ』だとか脳味噌寄生虫にやられたとしか思えない発言が出てた時は頭を抱えたよ。貸し切りにする資金はどこから出すの!? 家の財産から出てるよね! なんてことになる前にクレジットカードの役割をする龍雅の所有するカードを隠して、花風嬢の方からお茶会に誘ってもらうように裏から手を回し龍雅の端末から『予約が上手くいかないか』と発信して置いた。無事嫌そうな顔をしている龍雅をお茶会に出席させて(へまをさせないようについて行った)自分の立場を思い出させようとしたが無駄だったらしい。
後で友人が嬉々として教えてくれたことだが綿飴嬢は別の男とお出かけしてたらしい。デートではないらしいがどう考えても二股をかけてデートしてるようにしか見えない。
ちなみに端末にはパスワードを付けられるのだが適当に生年月日を入れたら開いたのでため息も出なかった。ちなみに綿飴嬢の方である。情報収集していてよかったと思った。こんな情報が役立つなんて思いたくなかったよ。
~~~~~
とまあ、ここまでやってきたことを見てもらえば僕が叫びたくなる理由もわかるだろう。脳無しの龍雅がまたヤバい発言を発信したわけだ。
『美しい君に涙を流させたものを許すわけにはいかん!!! 卒業パーティーで恥をかくがいい!!!!!』
エクスクラメーションマークの量が知能の低下をありありと見せつけているようで頭痛い。そんでもってさすがにこの文面は問題にしかならなくてもう叫ぶしかない。どうしろってんだよ!
もう限界だよ! フォローも我慢も!
最近、龍雅は綿飴に脳味噌まで浸食されたらしく花風嬢との関係も悪いものになっている。具体的に言うと花を自分から渡さなくなった。僕が選ばせてはいるけど、最終的に渡しに行きたくないと駄々をこねるので代行という形になっている、というかしている。その時は鳳凰龍雅の使いだと周囲に知らしめながら失礼の無いように渡さないといけない。なんてミッション。
直近では花風嬢に「お疲れ様です……って伝えてください」と言われてしまった。これ僕の情報工作バレてるよね、やっぱり。
はあ、喚いていたって始まらない。何とか家に被害がいかないように穏便に済むようにしないとな……そう考えて端末を操作して裏から手回しを始めるのだった。
で、パーティー当日。普通は誰かエスコートするんだけど事前準備で忙しい僕にはそんな甘い思いは訪れません。そもそも騒動を起こすのでパーティーの内容に問題がないように実行する方々とも連絡を取ってる。花風嬢は別の方にエスコートを頼んでいる。
それで、今はパーティー直前に龍雅に友人として最後に花風嬢の方へ行くように説得しているところだ。
「どけ! お前は俺様の部下の癖に逆らうのか!!!」
「今僕は友人として頼んでるんだ。龍雅が綿飴嬢の方に行ってしまったら彼女はどうなる?」
「そんなの知らん!! いい罰ではないか!!」
ああ、やっぱり駄目だったか。いや無駄だったか。もう友人としても止められないようだ。
……それなら従者として止めるだけだ。そう切り替えて僕は端末を操作した。
「なら、従者として止めるだけだ。龍雅様、あなたの予定は婚約者のエスコートだ。それはしっかり決まっていることだ。私は従者としてそれをあなたにさせるだけ。予定には従ってもらいます」
「ふざけるなよ! 婚約者だと!? あんな女この俺様にふさわしくない! それを知らしめに俺様にはやる事があるんだ!」
「そのやる事とは何ですか? 家の存続よりも大切なものですか?」
「家のことなど関係ないわ!」
ため息を一つ。ここまで馬鹿になっているなんてという悲しみを吐き出していく。
「今私はあなたの従者として会話しています。その内容は当主様……あなたの両親に伝える義務があります。その上で家の事は関係ないと、そうおっしゃるのですか」
「ええい! 何をごちゃごちゃと! そこをどけ! 従者なら俺様の命令を聞け! 不出来な従者だと言いつけるぞ!」
もう声も届かないみたいだな。会話が成立しているとは思いたくない。僕は僕の目的を果たそう。
「わかりました。では最後に質問させてください。何をしに行くのですか?」
「俺様の天使、綿飴嬢を婚約者にする。そのために花風、あの女狐の化けの皮をはがしに行くのだ。このパーティーという最高の舞台でな」
最低の舞台だよ。そう思いながら僕は体を半身にして龍雅を通した。わざわざぶつかるようにして龍雅はそこを去っていった。きっと綿飴を迎えに行くんだろう。エスコート役としてかな。
始めに言った通り僕は鳳凰家に仕える蝶野家の息子だ。つまり鳳凰家にスキャンダルがあれば蝶野家も危険にさらされることになる。そして僕は蝶野家の敵には容赦しないようにしている。大切なのは龍雅ではなく、自分の家だ。龍雅に仕えているのはその後ろの鳳凰家に命令されたからに過ぎない。
つまり、龍雅にはもう容赦しない。徹底的に潰そう。そのために準備してきた。
~~~~~
そろそろか、そう思い龍雅の向かった先に行けば、地面に縫い付けられている龍雅がいた。上から押さえつけている内の一人はギャルゲーを進めてきた友人だった。彼は好きなアニメキャラに近づくために鍛えているから龍雅でも動けないだろうな。ちなみに報酬はアニメグッズ。彼も鳳凰家の傘下の家の出なのでこの件に関しては口外されないだろう。
「あの女はどこに行った?」
「ああ、あれは複数の令息たちに持っていかれた。今頃18禁も真っ青な展開が待ってるんじゃないかな?」
「まあ、そんなことになったら社会的に終わってるけども」
彼女はまあ、複数のいい家のイケメンをたぶらかしていたらしい。乙女ゲーム転生ものかとおもった、というのは目の前の友人のぼやきだ。足元からふざけるなとか馬鹿が騒いでたけど無視。
「でも、すごく嫌がってたな? 普通ならすごく喜びそうなもんだが、イケメンに奪い合いされる私、ヒロイン! 的な感じで」
「ああ、それはまあ未来を潰したからな」
「なんかしたのか?」
「特に何も?」
ただ、例のサービスを使ってこういう人が居るから危険だって嫁入りしそうな家のリストをばら撒いただけ。まっとうな家ならそれを見ればヤバイことが分かってそうなる前に対策を立てるし、どこかに嫁入りしてもその情報を流すようにしたから徹底的に上流階級から追いやられるだろう。
そこに僕と一緒にやってきた御方が会話に加わってきた。
「だからって、僕をはじめとした大勢の鳳凰家の方々に反応して取り上げてもらうなんてよく思いつくよね」
「所詮は学校の端末ですから。誰が出したものかを探るのは難しいでしょう」
「その度胸だよね。この僕に対してエスコートをさせて、その直後に龍雅の様子を見に来るようにお願いするとか龍雅の従者としての範疇じゃないよ」
「家が危ないと考えたので、私は鳳凰家の従者ですから」
「気を付けてくださいね、風雅様。こいつが家とだけ言った時は蝶野家の事を指してますから」
「余計なことを言うなよ、しっかり押さえておかないと報酬はやらんぞ」
「いやはや、君たちが将来鳳凰家を支えてくれるなら安心だなぁ」
ほのぼのしていたら空気の読めない馬鹿が声を荒げた。
「風雅! なぜここに!」
「当主、つまり父上からの言葉を預かってきたんだよ。龍雅兄さん」
口調は穏やかだが有無を言わせない雰囲気を作り出す鳳凰風雅様。ざっくり言ってしまえば龍雅の弟だ。
そして何かあったときは龍雅に代わり鳳凰家を継ぐ人。
「まあ、簡単に言うと龍雅兄さんは追放。今後龍雅兄さんは鳳凰家ではなくなる」
「なんだと! 何の権限があってお前がそんなことを決めるんだ! 風雅!」
「難しくいっても龍雅、君は理解できないだろうからと簡単に要点をまとめてあげたのにね」
そして龍雅は何かを引き起こしてしまった。花風嬢との関係悪化、婚約破棄を引き起こそうとしたこと……それらすべてを事前に身内で処理して、結果的に龍雅は追放。外から見たら花風家とは円満な婚約解消という事になるかな。
そんな龍雅の情けない状況を、鳳凰家の当主に伝えてたのはもちろん僕。なんて言ったってあのサービスで連絡が取れるからね。私は当主のフォロワーですから。向こうも私の事を情報源の一つとして扱っているみたいだし、こっちはこっちでこういう時に虎の威を借りれるしいい関係だよね。
それで後から手回しして、龍雅の会話のさなか、龍雅の先回りをして取り押さえるように隠れた護衛なんかに頼んでいたわけだ。
「その辺の裏の手回しも面白かったし、その関係をいい関係と思える図太さがいいね、気に入ったよ」
風雅様の不吉なセリフがあった気がするけど、気のせいだから。急に花風嬢のエスコートを頼んだの恨んでるわけじゃないよね? まあ、だからこれで僕は自由かなぁ。また新しく鳳凰家から仕事が回ってくるのかなぁ。運転免許取って運転手なんかもいいよな。
これは決して現実逃避なんかじゃない!
「あきらめろよー、またお前は従者、いやフォロワーかな」
「すごくやめたい」
結局僕はその後すぐに風雅様の従者兼友人枠に放り込まれてしまうのだった。しかもなぜか花風嬢に従者として気に入られて僕が従者をするなら風雅様と婚約してもいいと言われたらしい。前半はともかく後半はなんでだ。
テンプレを書きたい思いから始まってどんどんずれていきました。テンプレを狙って書くのって難しいですね……