ステータス
目を開けると、たくさんの光がタクトを襲った。
「まぶしい・・・・ん?」
光をさえぎるように、右手で目を隠して座っていた。ところが地面を触っているはずの左手からグニョッという感触があった。気になってタクトは地面を見た。そこには・・・。
「ス、ス、ス、スライムーーーーー!?」
正式名称は『ビックスライム』その名のとおり、とても大きなスライムだ。不幸中の幸いでタクトの落ちた崖の下にはスライムがいたのだ。そのスライムがクッションがわりになってタクトは命拾いした。
そんなことも知らずに食われると思い、急いでスライムから降りた。そうするとスライムは食うわけでもなく、襲うわけでもなく、ただゆっくり森の方に帰っていった。
「スライムか・・・。これは、いよいよ”異世界”って感じだな」
タクトは薄々感付いてはいた。森を歩いていたときにも、それなりのヒントがあった。でも、認めたくなかった。
「もし、ここが本とかで見る異世界と一緒なら・・・・死ぬかもしれないな。まぁ、今さっき死にかけたところなんだけど・・・。」
そう、この世界は命が軽い。いつも隣にいた人が突然いなくなってしまう世界だ。平和な日本とは違う。
タクトは絶望した。
”こんな世界で生きていけるはずがない・・・・でも、。”
同時に希望を見つけた。白い虎から逃げるとき、タクトは人並み外れた速さで走った。もしこれが、
「これがあれば、異世界を生き抜けるかも・・・。」
そう思った矢先、神のいたずらかタクトの前にある映像のようなものが現れた。そこにはこう書かれていた。
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有島タクト レベル1 男性 HP9/10 MP0/0
称号
最弱勇者
スキル
逃げ足 挑発
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HPが1減っているのは恐らく崖に落ちた時だろう。この映像をみてタクトが始めに目に入ったのは、最弱勇者だった。それを、震えた手で押した。そして、そーっと映像を見てみると・・・。
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称号 最弱勇者
この称号を所有する者は、一切のレベルアップ、ステータスの向上を許さない。
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「っ!!」
どうやら、この映像の称号やスキルの部分を押すことでその称号の効果などが見れるようだ。そして、この手の本をあまり読んでいないタクトでも分かった。これは最悪だ。しかし、まだ希望を諦めたくないタクトは”逃げ足”と”挑発”の部分を一つ一つ押した。
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スキル 逃げ足
逃げるときに自動発動するスキル。追いかけてくる対象が絶対に追いつけない速度で走ることができる。しかし、3分間このスキルを使っていると足に強烈な激痛がはしる。そして、これは逃げるときにしか使えない。
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=================================== スキル 挑発
相手の注意をひくスキル。しかしスキルを使う対象の頭がえらいほど、このスキルの効果は薄れる。
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「なんなんだよ・・・これ。」
”最後の希望の綱だった、あの足の速さは逃げるときにしか使えない?しかも使えるのは3分だけ。これじゃただの時間稼ぎにしかならない。”挑発”に至っては論外だ。敵に狙われるだけじゃないか。”
タクトは絶望した。数十秒前のときより比べものにならないほどに。そんな、タクトの頭の中に強くでてきた一つの言葉は、
”死にたくない”
タクトはその言葉に埋め尽くされた。
”死にたくない、死にたくない、死にたくない、死にたくない、死にたくない、死にたくない、死にたく・・・・”
「あ、いました!!」
突然、森の方から大きな声がした。
「大丈夫ですか!!けがはありませんか!!」
その声の主は、さっき白い虎に襲われそうになっていた金髪でお嬢様のような格好をした女の子だった。
「大丈夫ですよ・・・」
全然、大丈夫じゃなさそうな声でタクトは答えた。
「本当ですか?顔色も悪そうですし、それに声だって・・・。やはり、どこか悪い所を打ったんじゃ・・」
タクトの顔を触って心配そうに彼女は言った。その手はとても優しく暖かった。そして少しだけタクトの絶望を取り除いてくれた。
「本当に大丈夫ですよ。崖の下にスライムがいたので」
今度はさっきよりも元気な声で答えられた。しかし、彼女の反応は意外で、
「ふふふっ」
笑った。タクトは”何か笑わせることした!?”と困惑した。
「すみません、とても面白い方なのですね。あなたは」
この森ではまだビックスライムは確認されておらず、彼女は通常サイズのスライムで考えてしまったのだ。もし、そんなことになっていたらスライムの死骸がそこにグチャッとなっていただろう。ちょうどトマトが潰れるように。
「そうですかね・・・。はっはっはっ」
乾いた笑いをしたタクトがこの事に気付くのはまだ少し先の話。
「あ、申し遅れました。私、アリスといいます。名字は、すみません控えさせてください」
名字のことは問い詰めなかった。聞いたとしても、その名字が何を意味しているのかも分からないから。
「僕の名前は有島タクトといいます。」
その後、軽い握手をかわし、しゃべりながら森を歩いた。
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