ここにあの子はいません。
ピーンポーン
はーい
あら、学生さんたち
こんな年寄りの家になんのようです。
えっと
学校の授業の課題で自分の住んでいる地域の歴史を調べなければならない?
それで調べていたら
50年前にこの辺りにあった学校の卒業式で起こった火事の話を知ったの
あらあら、よく私がその時の卒業生だって調べたね
ここまで熱心に聞きに来た人たちは初めてよ。
仕方ない、話すしかないわね。
いい、これから話すことは全て本当のことだから。
そう、あれは私たちの卒業式に起こってしまったことなの
あの日、校長の閉式のあいさつが終わって、
私は教室にいたのよ。
他の人たちはたまには会おうねとか、寂しくなるねとか、そんなことを私以外の人たちは
話していたの
でも、あの男はあの女の肩を抱きながらいきなり大声をあげて話しだしたの
「俺はお前との婚約を破棄して、この子と
婚約を結ぶ!!」
私には[お前]が誰を指しているかすぐにわかった。
でも、私には不思議に見えた。
あの男が[お前]と読んでいるあの子は
ここにはいないはずだった。
「はあ、婚約を破棄するのですか。」
その声の聞こえた窓のそばの席を私を含めほぼ全員が見た。
何人かは
そこには誰もいないよという人と
なにも聞こえないし誰もいないという人がいましたが
そこにはあの子がいた。
どうして、いないはずなのに
あの子はびっくりしている私に向かって目配せをした後、あの男に向かって言い返したの
「理由はなんですの。私にはそれがさっぱりわからないわ」
あの男はこう返したの
「お前がこの子の持ち物を隠したり、
この子を裏で虐めたからだ。」
それを聞いたあの子は
少しため息を吐いた。
「それだけですの、
あなたが私にしたものより随分と可愛らしさがあるものじゃない。」
そうあの子は男の横にいる女を睨みつけながら言った。
女はあの子が現れた時からずっと青ざめた顔になっていた
彼女は睨まれているのをしばらく睨み返していたけれど、それが辛くなったのか、
こう言ってきたわ。
「どうして、あんた、
ここに来ているの、あとその顔はなによ。
なんで生きているの。」
何か、見てはいけないものを見てしまった
そんなふうだったわ。
私には生きているようには見えなかった。
私には最期にあった姿に見えていた。
それで
あの子は笑ったの。
私も、おかしいと思いましたの
だってあの子は私の目の前で
「ああ、この顔おかしい?
じゃあ
あなたに焼き殺された顔にしたら良かったのかしら。」
あの女に殺されたのですから。
あの子がそう言ったあと周りの空気がどこか
焦げ臭く、そして熱くなりました。
その時に何人かの生徒は教室からでようとしました。けれども、どれだけ引き戸を強く引いても少しも動きませんでした。
「あなたに学校の近くの空き家に呼び出されて、閉じ込められて、
じわじわと焼かれて、私は死んだの
とっても苦しかったわ」
と話しました。
あの女のその時の赤くなったり青くなったりした顔を今でも、ありありと思い出せます。
けれど、あの女は隅の方にいた私を見つけてその顔じゃなくなってしまいました。
そして、私の方を指差しながら
「じゃあ、じゃあなんで、こいつも死んでないのよ。
こいつもあんたと一緒に閉じ込めたのに生きているってことは、あんたも
ほんとはし、ししんでないんじゃないの。」
と焦りながらも勝ったような顔をしていいました。
彼女は焦っていたから気づかなかったのでしょうか。
自分が私たち二人を焼き殺そうとしたことを
認めるようなことを喋ってしまったことに
それを聞いた私はいいましたの
「私は助けてもらいましたの、
あなたが殺してしまったあの子に」
あの燃えている空き家から私たちは必至に出ようとしていた。
ねえ、あなただけだったら助かるのだから。
なんでそんなことを言うのよ、あともう少しだよ。頑張って一緒に生き延びようよ
だめだよ。
あの子は何処にそんな力があったのかは知らないけれど、私を空き家の外に突き飛ばしたの。
待って
突き飛ばされたあと、すぐ後ろで
バンと大きな音が聞こえ
空き家が崩れ落ちたのだ。
「私だけが、助かったのです。」
そう、あの女の目を見据えながらいいましたの。
あの女は私たちに怯えたような表情になりました。
「し、しんで、化けて出て来ただけじゃない。
あ、あああんたになにができるっていうの」
あの男も
「そ、そうだ、お前はもう生きていない
なにができるんだ。」
二人はそう叫ぶようにいっていました。
するとあの子はますます笑い始めましたの。
「なにができるってねえ、じゃあなんで私がこんなにはっきりとまるで生きているみたいに見えているか
教えてあげる。
あなたたちを
道連れにするためよ。」
一瞬あたりがしずまり、次の瞬間
叫び声が、教室いっぱいに広がったわ。
燃えている。
そう
いつのまにか教室が
まるであの時の空き家のように
燃えていたの
そして、
あの男とあの女は
「ぎゃあああアアアああ」
「助けてくレェェ」
そう叫びながら
燃えていたの
二人以外にも燃えている人がいたわね。
その人たちは、私たちをいじめていた人たちだったの
ごめんなさいとか許してとか
脅迫されたんだとか
色々言っていたけれど
あの子はまるで
一つの作業をするみたいに
一人一人燃やしていったの。
その人たち全員を燃やしていったあと
教室の引き戸を開ける前に
振り返って私の方を見たあの子は
まるで生きていた時の
元気いっぱいの
笑顔で、手を振っていた。
「さようなら‼︎」
と言いましたの
私の方もどこかでこの時間はあの子に会える最期の時間なんだとわかっていたのかもしれませんね。
私もそれ応えるために手を振ったの。
それを見たあの子は引き戸を開けて教室から出て行きましたわ。
ですが、教室が燃えているのには変わりありませんでした。
あの子が出ていった引き戸から
あの子に燃やされなかった人たちと一緒に
教室から出て校庭に逃げようとした時に気づいたのだけれど、
私たちの教室だけでなくて学校全体が
燃えていたのよ。
私はその人たちと一緒に校庭まで逃げれたけれど、同じように逃げれた人は、
数えられるくらいしかいなかったわ。
今考えてみると、あのイジメには
他学年や教師の何人かも参加していたから
あの子はその人たちを全部燃やしたのかなって
そのあと、消防署の人が来て火は消し止められだけれど、校舎はまた新しく建てなければいけませんし、何人もそこで人が亡くなりました。
結局、学校は再建されることなく
そのまま閉校になりましたの。
これがその卒業式の日にあった
火事の本当の話よ。
読んでくれてありがとうございました。