007話
讃岐の国【屋島】
「天が我らに味方したか・・・いやそうでもないか・・・」
【屋島】は現在西にチョウソカベ・【海援隊】軍、東にミヨシ・【天下不武】軍、海上にトヨトミ・【千成瓢箪】軍と三方を囲まれ敗戦は必至であり、脱出することすら困難となっていた。唯一可能性があるとすれば背後に心配のある西のチョウソカベ・【海援隊】軍であろう。
「トモモリ様の軍はどのあたりまで来ている」
「はっ! ここ琴平に布陣し西の連合軍の背後をかく乱しております」
キヨモリ軍の【亡霊武者】は地図を見ながら考え込む。
合流するにしても背後の東軍と海上軍をどうにかせねばならぬか・・・十河城のホソカワ軍を使うにしても逆に向うに寝返らぬまでも降伏位するであろうな・・・さすれば
「ホソカワ殿、貴公らが西軍を突破しトモモリ様に合流してもらいたい」
「不可能だ! 確かに挟撃する形となれば西軍を討てるであろうが、東軍は愚か海上軍も黙ってはおるまい」
ほぉ~・・・中々どうして
「良く理解している・・・」
「ならば!ど・・・」
「故にここ【屋島】で罠を敷き、十河城で我らが籠城している間で有れば可能であろう?」
罠と言うがここに運び込んだもので・・・!? 油かっ!
「ふっどうやらホソカワ殿も気が付いたようだな」
「だが、匂いでばれるのではないか?」
「心配ない。油をしみこませるは我らの身体よ・・・それも腐っておる者たちだ」
ホソカワ軍の武将たちも理解したのか顔を歪める。
「なっならば直ちに我らは西へ撃って出よう」
そう言うとホソカワ軍の武将たちはそそくさとその場を後にする。
「宜しいので?」
「ふっ構わんさ。時が稼げれば良い。それに貴様は本隊を率い北回りで西へと向かえ」
【亡霊武者】たちはざわめく
「我はここに罠を仕掛けた後に十河城に行く・・・本隊に見せるために旗を多く掲げてな」
「しかしそれでは貴方が・・・」
「構わんよ。どの道ここ四国では我々の負けが決まっている。であれば一兵でも多くトモモリ様と共にするのが我らの再起に必要・・・それだけよ」
それを聞いた【亡霊武者】達の顔が悔しさに歪む。
「我らは一度死した者、故にまた甦る事も有ろう・・・」
【亡霊武者】達が顔を上げる。
「しかし、それもキヨモリ様あっての事。我はその妨げとなるこの時代に生きる者どもを一人でも多く道連れにしてくれるわ」
【亡霊武者】達は今度は決意を噛みしめ
「「「ご武運を」」」
「うむ、貴様らこそしくじる出ないぞ?」
その言葉に何処からともなく笑い声が木霊し、取り囲む連合軍は愚か西へ撃って出るホソカワ軍もまたその不気味な笑い声に恐怖するのであった。
ホソカワ軍が西軍へ撃って出た様だな
こっちでも確認した。それに合わせ【一の谷】の残党軍も攻めてきてるぜ
挟撃やな・・・ん? 【屋島】のキヨモリ軍にも動きが有るで
一部が北西・・・多分西軍を叩きに行ったんだろうな
せやなリョウマはん気をつけや
ちぃっ! 三方からの挟撃かよ!
ならっさっさと【屋島】を落とすぞ!
・・・
どうした?トウキチ?
ん? ちょいとな。ホンマに西軍を討ちに行ったんかと思うてな
考えすぎじゃないか? 俺ら西軍は他より疲弊している。それに三方からの挟撃となると更にな
せやなワイの考えすぎ・・・いややっぱり怪しいわ! ノブタカはん! あんさんら東軍は十河城へ向うてくれへんか?
それは構わないが・・・【屋島】にも相当数が残っているぞ、大丈夫か?
ワイの感が警鐘鳴らしとんねん。それが何かは分からんがな
・・・ならトヨトミ軍には海上周りで北西へ抜けた軍を追わせよう
なるほど、せやな話し通しとくわ
んじゃ開戦と行くぜ!
西軍はまず攻め上がるトモモリ軍へと軍を進める。
だが、ここでトモモリ軍の動きに違和感が出てくる。北側へ間延びし始めたのである。
西軍はこの動きを調査しようとしたところで東からホソカワ軍が姿を現し押し寄せる。
「何だ? トウキチの旦那の悪い予感ってやつが当たっちまったんじゃね~のか?」
短筒と刀を巧みに操りリョウマが【亡霊武者】達を蹴散らしながら叫ぶ。その叫びに康応する様に北からキヨモリ軍が現れ現実となる。
「ちぃっ! 悪い予感が当たっちまっているじゃね~か! 奴ら最初っから自軍を脱出させるのが目的かよ!」
リョウマが悪態を付くも防戦一方となった状態である西軍はどうすることもできなかったのである。
一方【屋島】へと上陸した【千成瓢箪】はその匂いに苦戦していた。
「何や! この酷い匂いわ!・・・ん!?」
トウキチは微かに油の匂いをかぎ取る。
「しもうた! 罠や! ここにも罠が有る! 全員船へにげぇ~!!!!」
トウキチの撤退の号令と共に周囲から火の手が無数に上がる。
「どないなっとんのや! こんな事、歴史には無いで!」
辛くもトウキチは船へと戻ることに成功するも半数以上が火に焼かれ大阪に死に戻って行くのであった。
十河城を攻撃する東軍にもまた火計が押し寄せる。街道の脇などに隠れていた【亡霊武者】と言うより【腐乱死体】と言った方が良いような者たちが襲い掛かりやられると同時に火の手が上がる。それが散発的に襲い東軍は各個に分断されて行くのであった。
十河城
「うまく行ったようだな・・・しかし一部が海上より追跡しているか・・・」
遠くに見える海岸線を船の明が移動しているのを見ていた。
「・・・アレくらいであればトモモリ様なら想定しておるだろう」
さて、我も最後の仕上げとゆくか
「やれ! 全ての者たちに等しき死を!」
【亡霊武者】の号令の下、城下町に暮らす者たちへとキヨモリ軍が襲い掛かった。それは正にヨシナカ軍が若狭の国で行った非道なる所業であった。
民を【亡霊武者】達が襲っている。その情報はホソカワ軍にももたらされた。
「くっ! 何ということを! これより我らホソカワ軍はキヨモリ軍へ攻撃する! 皆の者十河城の民を助けに戻る!」
大将がそう叫ぶも敵対していた者たちが急に攻撃をやめるはずもなくモトチカが兵を抑えるまでにホソカワ軍はその半数を失っていたのである。
ノブタカ率いる【天下不武】の実働部隊とホソカワ軍が十河城に付いたのはほぼ同時であった。
「くっ! なんてことを! 現地人を助けるぞ! 俺に続けぇぇぇ!!!」
馬へと鞭を入れノブタカが先頭を駆けキヨモリ軍へと突撃する。その後を慌てて【天下不武】の他のメンバーも馬に鞭を入れ追い駆ける。
【天下不武】や東軍であるミヨシ軍も城下町へと深く侵入しキヨモリ軍を打倒す。ホソカワ軍もまた軍を半数に分け半分を救助に向かわせ大将自身は十河城へと攻撃を掛ける。
ノブタカ達の活躍も有り多くの人々を助け自分達も城への攻撃に取り掛かろうとしたその時、周囲の門がある付近から火の手が上がる。
「くそっ! ここでも火計か! 消化しろ!」
ノブタカの叫びをあざ笑うかの如く燃え盛る炎の中から燃える【亡霊武者】が現れ【天下不武】は愚か人々へと襲い掛かった。
更に城からも炎が上がり、堀にある水道を通るかのように町の中にも炎が走る。
「・・・やられた・・・脱出すらできんとは・・・」
ノブタカが諦めを口にしたその時、どど~ん!! と大きな音を立て炎の壁ごと城壁が吹き飛ぶ。
「早く、ここから出る」
城壁を爆破し侵入してきたのはカズミの隊である。【種子島】に使われる火薬をかき集めその爆風で城壁諸共火を消し去ったのである。
こうして難を逃れ第2戦目である【屋島】を辛くも勝利するもほとんどの勢力は半数以上を失い最終戦である【壇ノ浦】に向け体制を立て直すことを与儀されるのであった。
 




