004話
一の谷の戦いは当初、無限にともいえるように【死鬼】により攻めあぐねる事態に陥っていた。更に時折現れる【修羅】も混ざることにより時間旅行者側にかなりの被害が出ていた。
ここでイベント開始時間となったことでアマテラスの加護により事態は動き出す。
「・・・!? 加護? ・・・なるほど、カズミの隊は前面へ! シバタの隊は崖上へ! 【一の谷】を再現するぞ!」
ノブタカの言葉で【天下不武】は動き出す。
「何や? ノブタカはんが動く? ・・・なるほど、そう言う事か! ワイらも動くで!」
周囲に立ち込めていた瘴気が薄れ、一の谷の裏の崖に存在した【死鬼】達が居なくなったのをトウキチも確認できたのである。
一の谷キヨモリ軍
「くっ! 瘴気の風穴が消えたか・・・更には背後の亡者どもも消えた・・・ふ・・・ふはははははは」
トモモリは不利となる現状で気でも触れたかのように笑い声を上げる。
「・・・っと済まぬ。だが・・・他の者たちは【屋島】へと向かう船に逃れたのだな?」
「御意」
「ならば我らは最後に一花咲かせようではないか!」
トモモリの言葉に部下の顔が曇る。
「何を悲観するか、別に我は死ぬつもりなどないぞ?」
その言葉に部下から困惑の表情が見受けられる。
「そんな事では生き残れるものも生き残れんぞ?」
自分達の主であるトモモリが決してあきらめていないことを部下たちは理解して、真剣な眼差しへと変わる。
「そうだ。その眼だ。さすれば我らは無事【屋島】・・・は無理でも我らが勢力圏には逃れることが出来よう」
「では九州へ行くと言う事でありますか?」
「場合によってはな。しかし出来れば【屋島】へ行きたいとは思っている」
「分かりました。第一目標を【屋島】として第二目標は四国にある勢力圏と言う事でありますね?」
トモモリは深く頷き、太刀を手に取り立ち上がると
「これよりこのトモモリ出陣いたす! 皆の者我に続け!!」
「「「おおお!!!」」」
当初の目的である味方を逃がすことに成功したトモモリは自身も脱出するために動きだす。それでもその背後を追わせない様にこの場に残る決断をする者も少なからずにいた。
トモモリは馬上より周囲を見渡し
東からの戦力はかなり強力だな・・・西は・・・船を手に入れることはかなわん・・・ともすれば南と言ったところか・・・
トモモリの視線の先には【千成瓢箪】の旗がひらめいている。
数は多いが、それらを纏めているのはあそこか
トモモリの瞳ははるか遠くのトウキチを見据え
「これより南、敵本陣を抜け脱出する! 我に続け!!!」
トモモリの軍勢は2,000にも満たない数ではあったのだがその軍勢は鬼神のごとく時間旅行者達を打ち払い突き抜けて行く。
「何や! ここ目指しとるんかいな!」
どうする? このまま迎え撃つんか? いやそれでは被害が出すぎる・・・ええ~い
「防衛斜陣や! 敵部隊を受け流すんや!」
トウキチの指示の下斜陣を敷きトモモリ軍に対応すると先頭を走るトモモリは口元をニヤリと釣り上げ
「ふっかかったな。皆の者一気に抜けるぞ!」
トモモリ軍は【千成瓢箪】本陣の斜陣に突撃することなく斜陣により開い隙間を抜けるかのように突き抜け瞬く間に後方へと抜ける。
「しもうた! 脱出が狙いやったか!」
トウキチは悔しがりながらも4,000の軍を追撃に回し、気を取り直し【一の谷】攻略へと向かう。
多分アレが大将や、最初の攻勢や此処の防衛戦を見るに今後も苦戦するっちゅうことやな・・・
トウキチは自身が逃した魚の大きさを思い再度悔しさをにじませるのであった。
トモモリ軍は追撃戦などによりその半数を失うも海上へと脱出に成功する。
「残ったのは半数・・・敵の規模を考えれば上々・・・仇は次の戦で取る」
すると鎧武者がトモモリの下へと掛けてくる。
「その顔を見るとやはり【屋島】へは無理なのだな?」
「はっ! 海上をトヨトミ軍に封鎖されており難しいかと・・・いえ、被害を考えねばいけるのですが・・・」
「良い。だが【屋島】に行けずとも四国へは逝けるのだな?」
「はっ! 予測では九亀の港へは入港できるかと」
トモモリは顎に手を置き
「ふむ、天霧の戦力を使い援軍とするしか対抗手段は無いか・・・」
トモモリは天霧城で戦力を整え【屋島】へ援護に向かおうと考えていたのだが、現在天霧城へ向けチョウソカベ軍と共に【海援隊】が進軍中であった。
またキヨモリ軍に降っていたホソカワ軍の内部でも反旗を翻す勢力があった。ナガヨシを中心としたミヨシ軍である。
一の谷よりキヨモリ軍が撤退してくる中、チョウソカベ軍の北上に康応するかのように阿波の国、勝瑞城で反旗を翻し占領すると脱出してきたキヨモリ軍へと攻撃を開始したのである。これに対しホソカワ軍は讃岐の勢力を持って対応したのだが・・・ここでチョウソカベ軍の北上が効果を発揮する。2面から攻められキヨモリ軍と協力してミヨシ軍は阿波の国に抑えることが出来たのだが、チョウソカベ軍に対し後手に回り防衛の要であった白地城を失うこととなったのである。




