001話
常陸の国太田城南東に位置する水戸・・・更にその先にある港町
【死鬼】が人々を襲う中1艘の小舟が海岸に漂着する。
「ん? 付いたのか?」
小舟の中のわら網の上掛けの様な物がずれ落ちる。するとそこから鋭い赤紫の目つきに黒に近い紫髪の顔立ちの良い男が起き上がる。
「・・・さっさと依頼を終わらせるとするか」
周囲の状況など気にしないと言った風体で小舟から降りる。するとそこへ【死鬼】が1体襲い掛かって来る。
「じゃまだどけ」
男はこぶしを握りしめ【死鬼】の顔面へと裏拳を叩きこむ。べきっ!頭部が砕け散りその場に【死鬼】が倒れ込むように霧散する。それを皮切りに男を敵とみなした【死鬼】が無数に襲い掛かる。
「・・・まっ準備運動にもなりゃしないが肩慣らしと行きますか」
そう呟くと男は背中から身の丈程の大きな斬馬刀を引き抜くと【死鬼】へ向け駆けだした。そんな男へと【死鬼】も襲い掛かる。
「ふっ!」
一振りで【死鬼】が数体が切り裂かれ粒子となり消える。更にもう一振りで同数以上が消滅して行く・・・
「歯ごたえがありゃしない・・・まっ久々だ。全力を試してみるとするか」
男はそう言うと深く腰を落とし斬馬刀を肩へと背負い力を貯めるように構える。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁっはっ!!」
その構えから振り下ろされたその一撃は大地を砕き周囲が爆散する。そして深く地面を抉ったその一撃に男は一息つくと『ピロンッ』と機械音が流れ
『自然を破壊するんじゃない! それ修復するの大変なんだぞ!・・・』
強制的にメッセージが浮かび上がるが男は空いている左手で空を切るとメッセージが消える。
「そんな細かいこと気にしていられるかっての」
再び斬馬刀を背へと戻すと男はゆっくりと北へと歩き出した。
太田城
「水戸方面の【死鬼】が次々とやられているだと? ちっ奴ら【豪鬼】と【早鬼】にてこずると見て戦力を中枢へと送り込んできたのか・・・諜報部は何をやっている」
【知鬼】は傍に控えている【死鬼】を睨み付ける。
「北のダテ領で戦いが始まっています。それに上総の国、下総の国の大型船は【アシヤ】が破壊したはず」
【知鬼】もその場にいたから分かっていることで、さらに言えばダテ領の船は【知鬼】により奪われている為有り得ないと・・・
「・・・だがやられているのも事実・・・被害状況は?」
「今朝の時点で【死鬼】1,700体やられているかと・・・」
「キヨタツ様が黄泉へと戻られ、留守だと言うこの時に・・・私が行くしかないか・・・お前たちも一緒に来い」
【知鬼】は生かしておいたサタケ軍の武将にも命令を出す。サタケ軍の武将は顔をしかめ悔しそうに頷き、渋々と言った表情で【知鬼】の背を追う。
斬馬刀を背負う男が次々と【死鬼】を打倒し太田城を目指していると言う噂は常陸の国に瞬く間に広がり各地で虐げられていた住民により【タイラ】に対する反乱がおこる。この反乱で鳴りを潜めていた常陸の国の時間旅行者達も立ち上がりより一層混迷を深め【知鬼】は内外に戦力を割かなければならず、次第にその支配地域を奪われていくのであった。
黄泉の国、黄泉平坂を望む小高い丘
「・・・これは!? 既に封印が解かれていると言うのか?」
キヨタツは【死鬼】達が黄泉平坂を下るのではなく登りゆく光景に瞳を見開きそう呟いた。
「・・・!? この気配は! 【修羅】も既に地上へと這い出ているだと!? ドウマめこの我を出し抜くとは・・・」
ドウマがキヨタツの留守に行ったことでキヨタツは苛立ちを見せる。なぜならば自身を支援していた勢力の一部が【アシヤ】へと流れてしまっていたのだ。更に悪いことに黄泉平坂の封印がドウマにより解かれていることもその流れを後押ししていた。
「このままでは我の勢力の3分の1は確実に持って行かれるか・・・だが!これ以上好きにはさせん!」
キヨタツは踵を返し山を下へと歩き出す。
眼下に雲が望む空の上
「今頃キヨタツは悔しがっている頃であろうかのう? さてさてこれで日ノ本の目は京や西国、それと【タイラ】の居る常陸の国に集まるじゃろうかのう? 次に傾けるは・・・おお、あやつが良いかのう? 【神子】の領地に近いことでもあるしフォフォフォフォ」
ドウマはある男の顔を思い浮かべ
「操るは難しくともやり様はある・・・動き出す後押しくらいはできるじゃろうて」
ドウマのその手にはツチミカドが阻止したかった陰謀の文、その一つが握られていた。
大阪城、【千成瓢箪】に与えられている一室。
「これで一先ず一の谷攻めの準備は整ったちゅうことやな」
城の外に集まる武装した【千成瓢箪】を含む時間旅行者の集団を見下ろしトウキチは呟く。
「情報では一の谷の背後の崖の上は【死鬼】やその上位種により抑えられとる訳やが・・・派手に動けばキヨモリ軍に気づかれる・・・どないすればいいんや・・・」
トウキチは事前に調べた情報を見ながら一の谷周辺の地図を見据える。
「船で・・・いやそれやと屋島の方が遅れるわな・・・正攻法で攻めるとなると・・・広いとこに誘き出し種子島でってのがセオリーやな」
トウキチはそう言うと地図を丸め懐へと仕舞う。
「まっ後はノブタカはんらと合流して決めればいい」
一の谷に建設された砦の一室。
「砦かは完了いたしたが、西にいるクロダ軍が邪魔だな」
「それにヨシナカ軍の敗走は手痛い」
「四国からの援軍は?」
「間に合わんであろう? 予測では明日か明後日には奴らが攻めて来よう」
「ならば出鼻をくじいてやれば良い」
「なるほど、集結するために訪れるであろう城を攻めるのだな?」
「まずはそれで時間を稼ぎ、援軍と共に四国へと渡り立て直すほかあるまい」
その場にいた【亡霊武者】達が一斉に頷き
「だが悟られるわけにはいかんか・・・やれやれだな」
一の谷へと向かう為【天下不武】、【千成瓢箪】は有岡城を合流地に選んでいた。だがその場所へと到着する前にキヨモリ軍が速やかに有岡城に襲い掛かった。その報はすぐに進軍中の【天下不武】のノブタカの下へともたらされる。
「・・・くっ! イベントと見てぬかったか」
ノブタカもトウキチもイベントであるからキヨモリ軍は【動かない】と高をくくっていたのである。
「トウキチの【千成瓢箪】も動いているだろう。俺たちも有岡城へと向かう!イベント前の前哨戦だ!皆ぬかるなよ!」
ノブタカの言葉に歓声が上がる。
「こうも不測の事態ばかりだと尾張の国の方でも何かが起こりそうで怖いな・・・」
不安を振り払うかのように首を左右に振りノブタカは馬の背へと跨るのであった。
北上する【千成瓢箪】
「してやられたわ! だがこれは好機や! 戦力を分散させたちゅうことは一の谷は手薄! 有岡城の方は【天下不武】が向かいよるやろ。ワイらの手で一の谷を攻め落とす!」
トウキチは有岡城をノブタカに任せ自分達は一の谷を攻めることを選ぶ。抜け駆けの様に見えるこの行動は、一の谷を攻めることで有岡城を占拠したキヨモリ軍を牽制すると言う目的も含まれていたのである。しかしこれは既にキヨモリ軍は予測し、有岡城に寡兵を残し、その主力は南下を始めていた。準備が整わない軍を合流前に各個に叩くと言う策戦にキヨモリ軍は出ていることをトウキチは愚かノブタカも知る由は無かったのであった。




