007話
武蔵の国 八王子城下
甲斐の国にほど近い城下町、その城下町の宿屋の一室で座禅を組み瞑想する細身の男トウシロウは現実世界で自○隊に属しVR世界では【白虎隊】のマスターを務めている男である。そこへ勢いよく襖を開けショートヘアの女性が駆け込んでくる。
「トウシロウ! 大変だトウシロウ!」
細長い鋭い眼光が開かれる。
「ユキ落ち着け、それで何事だ?」
「これが落ち着いていられますか! 【氾濫】ですよ【氾濫】!」
トウシロウの眼光が更に鋭さを増す。
「場所は?」
「隣の甲斐の国! 躑躅ヶ崎の東の森!」
トウシロウはその場所に付いて考え
「あそこには【風林火山】の本部があったな?」
「はい。ですがその主力は【富士の樹海】へ遠征中だとのことです」
トウシロウはわきに置かれた刀を持ち
「他のメンバーは?」
「準備万端トウシロウの号令を下で待っております」
「移動は?」
「馬を18頭、先発の小隊を騎馬で送り、馬車でその後を追う形となる予定です」
「ギリギリだな・・・」
ユキが入って来た襖から出るときにトウシロウがポツリと漏らした。そうこの八王子城下まで情報が来た時点でそれなりの時間が経っていることとなるのだ。ギリギリ・・・人的な被害が出ることを予測しトウシロウは唇を噛みしめるのであった。
尾張【天下不武】本部
「・・・間に合わんだろうな」
知らせを聞いたノブタカの第一声がこれである。
「だが【富士の樹海】にいる【風林火山】の本隊よりは早く着くんじゃないのか?」
シバタがそれでもダンジョンである【富士の樹海】から戻るよりは可能性があると意見する。
「君はバカだね」
「んだと~?」
シバタをヒデトがからかう様に馬鹿にする。
「いいかい? 【ファングドック】は躑躅ヶ崎の北に多く生息している。【ファングウルフ】に至っては武蔵の国など平地に生息している」
「何が言いて~んだ?」
「だからバカと言われる。人為的可能性がある」
シバタとヒデトの会話にカズミが加わり結論を口にする。
「なっ!?」
「私なら救援が来る可能性を考慮して躑躅ヶ崎北部にも何らかの罠を張るね。【六文】は【風林火山】と同盟関係にある訳だし・・・」
すると腕を組み考え込んでいたノブタカが口を開く
「もしかしたらターゲットは【白虎隊】かもしれね~な」
「【白虎隊】かい? 【葵】を破った・・・!? まさか! 犯人は【葵】のメンバーかい?」
ノブタカの言葉にヒデトが犯人である可能性を持つ者たちに思い至り声を上げた。ノブタカは首を縦に振り頷き
「確かタダトラって言ったか? プロのゲーマーだったらしいが、【白虎隊】に敗れた後シンパの連中と共に【葵】と距離を取りだして、なんか画策しているらしい」
「ノブタカは、それが今回の件だと言うのですか?」
「人為的であった場合一番可能性が高いと俺は思っている」
会議室の中に沈黙が流れる。
「・・・だがよう。この世界で犯罪や何かを犯せば捕まるだろうが」
「現地人と組んでいればどうだ?」
沈黙を破ったシバタの言葉にノブタカが答える。
「ゲームの仕様だと思っていたって言いかねないね」
「ログを調べれば一発なんじゃね~のか?」
「はぁ~何千万人居ると思っているんだい? VRでは基本現行犯だよ」
「悪質なのは例外」
「捕まるまで確実に被害者を増やすわよそれ・・・」
「かぁぁぁ~もっと法整備に力入れとくんだったぜ」
ノブタカは両手で頭をかきむしり愚痴をこぼした。
上田から躑躅ヶ崎へと向け【六文】の一団は魔物の大群に襲われていた。ヒデトが予測したようにかなりの戦力が待ち伏せていたのである。
「カエデ! 右から突撃、敵を分断して!」
眼鏡を掛けた髪の長い女性が薙刀を振るいながら叫ぶ
「わかった! ユキナも無理しないでね!」
活発なショートヘアの瞳が大きな美少女が馬上より叫び
「騎馬隊! 私につづけぇぇぇ!!!」
「「「おおっ!!」」」
カエデの後を5騎が追従する。
「歩兵隊は無理せず守りに徹しなさい! 必ずカエデが活路を開いてくれます!」
「任せな!」
「殲滅しても良いのですよ?」
左右結んだ場所は違うが、見るからに双子の少女達がユキナの声に反応する。
「ハル有難う。ナツは良いから今は抑えて!」
「「は~い!!」」
双子が返事をすると丁度回って出てきたカエデの騎馬隊が魔物達の横へと食らいついた。
魔物達の注意がカエデ達へと集中しその背後へと抜けたその時
「全軍突撃! 挟み撃ちにします!」
ユキナの号令が下る。
「待ってました! ハルおっ先に!!」
髪を左に縛った双子の1人が真っ先に駆けだす。
「あっ! ナツちゃん! 1人じゃ危ないって!」
その後を右に縛った少女が追い駆け、その後を歩兵が追従する。
終わって見れば死者もなく完勝と言えるだろう戦果だが、数が数だっただけに消耗が激しく躑躅ヶ崎へと援軍に向かうだけの体力は残されてはいなかったのである。