011話
「ほぉ~・・・【羅刹】の瘴気の衣を砕きよるか、見事、見事じゃな」
いつの間にか遥か上空よりドウマがアスカと【羅刹】を見下ろしていた。
更にアスカの刃は【羅刹】へと迫る。ギャギ~ン・・・金属がぶつかり合う音が響く。アスカの攻撃を【羅刹】は手に持つ金属製の棍で防いでいた・・・いや防ぐだけではなく【羅刹】の身体がその一撃の威力を利用するかの如く回り目にも止まらぬ突きが繰り出される。
アスカはそれを前に出ることで躱し、躱しざまに刀で【羅刹】の腹部を切り裂く。血が噴き出すかに思えたその傷は、巻き戻すかの如く元の状態へと戻って行き、振り向きざまに棍の横薙ぎは振るわれる。
アスカはその横薙ぎを前面へと転がることで躱し向き直ったところで【黄龍の太刀】はその姿を粒子へと変え霧散する。
「まだまだ未熟と言ったところか・・・」
ドウマは手をかざしその戦いを止めようとしてその手を止める。
「ほぉ~背に持っておったのは大太刀ではなく、小太刀を2刀であったか・・・ん? あれはオリハルコン? しかしこの気配は・・・」
2刀を抜き構えたアスカが言葉を紡ぐ
「大切な誰かのために、大切な何かの為に、僕は!」
アスカの纏う気が一気に2倍ほどに膨れ上がる。
「まだ奥の手を残しておったのか・・・うむ見事じゃ」
ドウマはその突きだした手を降ろし微笑む。
そこからの戦いは一方的と言う一言に尽きる。アスカの速度に【羅刹】が付いて行けないのである。しかしながら【羅刹】の【超回復】のスキルにより傷口は見る見ると塞がり、また新たな傷がつき塞がるを繰り返し終りの見えない戦いへと突入して行く方思われた。
「うむ、攻撃、速度、回避は神子の方が上、力、耐久、回復は【羅刹】の方が上と言ったところじゃな・・・ヌシもそうは思わぬか?」
ドウマは自身の背に気配を感じそう言い放つ。
「あいも変わらず貴方は見込みのある者を試すのがお好きと見える」
烏帽子をかぶり白い狩衣を纏う顔立ちの良い青年がドウマの背後に佇んでいた。
「それが妖となり果てた儂の楽しみじゃて・・・ヌシとてそうは思わぬかセイメイ?」
セイメイと呼ばれた青年は笑みを浮かべ
「私は時と場所を選びますよ」
「カッカッカッ! 言いよるわい。しかしなセイメイ、それでは時間が無いと言う物じゃて・・・」
「・・・黄泉の国が動き出すと言うのですか?」
「然り・・・何やら世界的な祭りの準備で追われとるようじゃがな」
「それゆえのこの行いだと?」
「無論それも有る。しかしあやつ・・・神子は面白いのう」
「・・・」
「まぁここではこれ以上儂は介入せんよ・・・」
そう言ってドウマは視線を再び地上へと向けた。
アスカは【羅刹】から距離を取り呼吸を整える。
このままでは埒があきませんね・・・どうしましょうか・・・
するとシャルロットやカエデを抜いて【修羅】が2体アスカの下へと押し寄せる。
「ごめん!」
シャルロットの叫び声が聞こえる。そんなシャルロットの下へと更に別の【修羅】が襲い掛かりその行く手を阻む。カエデも目の前の【修羅】を相手にその場を動けずにいた。
このくらいは想定内でしたが・・・あまり時間をかけてもよろしくないようですね
アスカは一瞬手に持つ小太刀へと視線を移ししっかりと握り直すと迫る【修羅】を一閃・・・斬られた【修羅】は傷口から凍り付き砕け散る。更に一閃・・・もう一体の【修羅】を斬りつけると今度は稲妻が迸り【修羅】の身体を消し炭へと変え砕け散った。
くっ! これは身体への負担がかなりきついですね
アスカは苦悶の表情を一瞬見せるが再び【羅刹】を睨み付けると覚悟を決めた様に【羅刹】へと駆けだした。
「これでっ!」
一瞬にして【羅刹】の前へと現れたアスカはその両手に持つ小太刀で【羅刹】を十字に切り裂いた。切り裂かれた【羅刹】は氷付き稲妻がその身体を迸る・・・ピシッ・・・ピシピシッ・・・次第に氷に亀裂が無数に入り最後には砕け散った。
「単なるオリハルコンの小太刀ではないと思うたがやはり聖竜族の核が使われておったか・・・うむ、見事じゃ・・・儂は次の機会を待つとする。それじゃあのうシキノちゃんによろしく伝えておいとくれ」
ドウマは霧散するかのようにその場から消える。
「・・・やれやれ・・・私も主の下へと戻ると致しますか」
セイメイもその場から姿を消した。
地上では【羅刹】を討ち取ったことで勢いを増したアスカ軍がユキナの采配の下大した被害を出さずに打ち破るのであった。
京の自身の屋敷へと戻っていたヨシテルは、思った以上に荒廃した都の街並みや屋敷の様子に驚愕し立ち尽くしていた。
「これが・・・あの雅であった我屋敷だと言うのか・・・」
すると伝令の兵がヨシテルの下へ訪れる。
「申し上げます! 我軍の残党軍、並びに【アシヤ】の妖軍、共にアスカ軍により打ち破られてございます! 明日にでもここ京の都へと訪れるとのことであります!」
「・・・そうか・・・敗れたのか・・・降伏を・・・」
「はい?」
ヨシテルの言葉が一瞬理解できないでいた伝令の兵は思わずそんな声を上げてしまった。
「・・・今更遅いやもしれぬが降伏を・・・我はもう疲れた・・・降伏だ」
「!? はっ! 直ちに!」
再び伝令の兵は駆け出しヨシテルは1人となる。
「・・・どこで我は道を間違えたのか・・・ヨシナカ軍に敗れたからか? それともヨシナカ軍に降ったからか?・・・いやそれもこれも我の読みが甘かったと言う事だな・・・」
がさがさ
「ん? 誰ぞおるのか?」
するとヨシテルの目の前に小汚い少年と少女が現れ、少年が前に立ち短刀をヨシテルへ突き立て構えている。
「くっ食い物を出せ! なっ何でもいいから早く食い物を出せ!」
こんな年端もいかぬ者たちが飢えていると言うのか・・・我は何のために・・・いやそれは違うな・・・
「どっどうした! そんな身なりをしてんだから何かあるだろ!」
ヨシテルは腰につるしてあった干し肉の入った袋を外し少年へと放り投げる。少年は慌ててそれを掴み袋から取り出すと中から干し肉を取り出し少女へと差し出す。少女は躊躇しつつもそれを受け取り貪る。少年も袋から干し肉を取り出しかぶりつくと兵士たちが現れる。
「小僧! 何処から入った!」
いきり立ち槍を構える兵士たちをヨシテルの手が遮る。
「良い。我らは敗れたのだ・・・これ以上民を苦しめる出ない」
「でも! しかしながら・・・」
兵士たちも自分達が後がないことを悟り苛立っていた。
「良い。我の首と引き換えにお前たちの命は助かるようにする。今までこの愚かな我に付いて来てくれたこと有り難く思うぞ」
ヨシテルがそう言うと兵士たちはその場で崩れ座り込む。中には止めどと無く泣き崩れ叫ぶものまで現れた・・・
翌日、アシカガ軍の降伏は認められアスカ軍はシキノ達【陰陽連】の者たちと共に京都へと入る。その荒れ果てた光景に一同は驚愕するもすぐさま治安維持のための警邏や炊き出しなどが執り行われ住人たちは今度の軍は大丈夫なのだと希望を持つのであった。




