009話
伊賀の城を目指す【十勇士】は思いのほか【蠱毒兵】に苦戦を強いられることとなる。それは倒しても周囲に瘴気を撒き散らした為に浄化に終れていたともいえる。
そんな中でも何とか伊賀の城へとたどり着いた【十勇士】であったが城下や城が瘴気に汚染されていて休む暇など与えられてはいなかった。これはドウマが近江の戦い【十勇士】の戦力が加わることを良しとしていなかったからである。
「フォフォフォフォ、これで近江が面白くなると言う物よ」
伊賀の城の屋根の上で北を眺めドウマが呟く。
清水山城東・・・ヨシナカ軍は統制は取れても戦略的に動けずに面白いようにアザイ軍の計略にはまり討たれて行く。
「ヤヘイ! 敵将を見たか?」
「いえ見ていません!」
馬上でナガマサはヤヘイへと訊ね、ヤヘイは見ていないと言う。
「ならばこっちもお取りと言う事か?・・・嫌な予感がする! ハルナ殿にこのことを伝えろ!」
伝令の兵が急ぎ駆けだす。
「ここが正念場だな・・・ヤヘイ! 行くぞ!」
「はっ! このヤヘイどこまでもついて行きますぞ!」
ナガマサを先頭にヤヘイが続きその後を兵が追う。見れば敵部隊を抉り敵陣深くへと分け入ることとなる。
長法寺へと陣を敷き待ち構える三人衆とシズカの部隊があった。
「あの嬢ちゃん中々やるではないか」
ヨシミチは自分達三人衆を後方から絶妙に援護するシズカの部隊に感心していた。
「・・・ならアレをやるか」
ヨシミチは部下に合図の狼煙を上げさせるとモリナリ軍、ナオモト軍がそれぞれ左右から交差するようにアサクラ軍へと突撃する。最後尾が分かれて蹂躙されたアサクラ軍が見えてくる。
「良し! 突撃だ!」
ヨシミチは槍を持ち手綱を打ち馬を掛けさせる。アサクラ軍にしてみれば何とかやり過ごした後に更に追撃が行われたことであろう。だが三人衆の攻撃はこれだけでは終わらなかった。左右入れ替わったそれぞれの部隊が再びアサクラ軍の横面をついたのである。その攻撃がその部隊を殲滅するまで幾度となく続く。
「凄い・・・こんな連携攻撃が有るなんて・・・っといけない。1から3隊は右翼を援護! 4から6隊は左翼を援護! 残り4体はこのまま前進! 正面の部隊を援護します!」
シズカは部隊を分け三人衆を援護する。
「やはり良いな。嬢ちゃんは戦場全体が見えているな」
ヨシミチの口端が吊り上がる。
一方作業のような艇を見せているのはドウサンとハンベイが居る戦場である。アサクラ軍は引く出なくただただ突撃するばかり、まるでそれしか行えない死者の様に・・・
「なるほど・・・既にアサクラ軍は【亡霊武者】となり果てているですか・・・これは少しきつくなってきますか・・・」
ハンベイの言葉通りに罠にはまり倒れた兵たちが再び立ち上がり罠を越えてくるのである。だがそこへカリナの部隊から無数の矢が降りそそぐ。勿論その矢は【神聖水】がたっぷりと塗られた矢である。
「儂らも矢を放つとするかのう」
ドウサンはそう呟くと部下へと指示を出す。更に矢が降りそそぎアサクラ軍の【亡霊武者】を倒して行く。
武佐に居るアスカ軍本隊
「予想より敵兵が多いみたいだね」
「そうですね。しかしやることは変わりが有りません! ユキナ」
「任せな!」
ユキナはカエデに指示を出しカエデは了承する。抑え込まれていたヨシナカ軍の前に居るアスカ軍が左右に開くとその開いた道をカエデの騎馬隊が駆け、敵部隊へと突撃を行った。
「シャルロットさん!」
ユキナはそれを見てシャルロットへと指示を出す。するとカエデの騎馬隊が駆け抜けた後の隙間を埋めるかの如くシャルロットの部隊がその隙間を埋める。敵陣ではカエデの騎馬隊が敵を薙ぎ払い無双している様が移る。
「それでは私は北部から来る部隊を殲滅してまいります」
ユキナはそう告げると北部から来る部隊へと向け自分の部隊を進めた。
ヨシテルの顔は悔しさに歪んでいる。
「なぜだ! 何故なのだ! 数は遥かにこちらの方が上であったではないか!」
ヨシテルの叫び通りアスカ軍の3倍を超える数がヨシナカ軍にあったのだ。では何故こうなっているかと言うと単にアスカ軍の装備によると言え、戦場が落ち着くとアスカの破邪の舞が始まり更にその効果が如実に表れたに過ぎない。寧ろこのことを知っていたならばヨシテルは今回の件を引き受けてはいなかったであろう。情報収集をおろそかにした結果とも言えた。しかしそんな事は当のヨシテルには分からない。
「あれほどの強さを見せていた【亡霊武者】が何故あれほど簡単に敗れるのだ!」
側近の家臣たちもヨシテルと同じくその事実を知らない為に答えられずにいる。
「ええ~いこうなっては致し方ない! 我アシカガ軍は京の都まで退く! そこで体勢を立て直すのだ!」
側近たちは顔を見合わせ頷き合うと声をそろえ了承する。
アシカガ軍は自分達が居たからこそ不利な状態でも何とかなっていたことに気が付いてはいなかった。アシカガ軍が撤退を始めると、その援護を受け持ちこたえていたヨシナカ軍が崩れ始めたのである。こうなっては最早戦力差などな樹にも等しい状態となる。散りじりに逃げ惑うアシカガ軍、その後を機動力を生かしたカエデの騎馬隊が追い駆けるのであった。
「敵将をここで逃がすな! 捕らえられないのなら討ち取っても構わない!」
駆け抜けるカエデの騎馬隊をヨシナカ軍が追従使用するとカエデの騎馬隊の背後からシャルロットに率いられた部隊が顔をのぞかせた。
「騎馬隊を追わせるんじゃないよ! ここでヨシナカ軍の息の根を止める! 進めぇぇぇ!!」
シャルロットの号令の下、ヨシナカ軍に向かい突撃が開始された。
一方北部へと向かったユキナ軍は最早虫の息となって倒れ込んでいるヨシナカ軍の【亡霊武者】達を発見する。
「あらあら・・・こちらの方にはアシカガ軍が全くいないのですね」
周囲を警戒しながら斥候の【ドール兵】を放つ。
しばらくして戻って来た【ドール兵】の情報を基にユキナは再び声を上げる。
「アシカガ軍が退却を始めているですか・・・彼らを京へ入れるわけには参りませんわね」
ユキナは馬へと跨ると
「これより追撃戦を始めます! 決してアシカガ軍を京都へ入れてはなりません! 進軍してください!」
ユキナは少数の騎馬隊を率い先行した。
ヨシテルの傍に居る兵は54を切っていた。度重なる追撃に足止めのための兵を割き、休む暇なく進んだために馬は愚か兵たちも力尽き最早追従する兵たちも戦える状態ではなかった。そんな状態であるから勿論行軍速度も著しく落ちている。
「ここまで来れば追っては無いか?」
力なくヨシテルはその場で座り込む。それを見た兵士たちもやっと休めると言った様にその場で座り込んだ。中には張っていた気が緩んだために倒れる物も現れ更に戦える兵を少なくしていた。
「これで京にまだヨシナカ軍の手の者が居れば我らは終わりだな・・・」
疲れた表情でヨシテルはそう呟く。そんな時後方から蹄の音が無数に聞こえてくると共に敵襲を知らせる声が発せられる。
「くっ! 最早これまでか・・・」
「本当にロッカク軍といい、主らといい諦めるのが早すぎじゃ」
突然の声にヨシテルは背後へと顔だけを向けその瞳を見開いた。
「きっ貴様はドウマ! ・・・はっ! そうか貴様が亡霊どもを裏で操っておったのか!」
「はぁ~今更そんなことに気が付いたのか・・・情けないのう」
「黙れ! このヨシテル腐っても将軍! 帝にあだ成す者にひれ伏すとでも思うたか!」
最後の力を振り絞るようにヨシテルは立ち上がり腰の刀を抜き放った。
「フォフォフォフォ、じゃがその覚悟ちと遅かったようじゃな」
ドウマの背後から大きな影が顔を出す。【死鬼】そう呼ばれる【亡霊武者】と並ぶ死者の怪物であった。




