007話
抵抗らしい抵抗を受けることなく観音寺城をとすことが出来たアスカ軍の下へヨシナカ軍が全戦力でこちらへと兵を進めると言う方がもたらされた。
「賭けに出たみたいですわね」
そう口にしながらユキナはテーブルに敷かれた地図に次々と駒を並べる。
「ん~でも可笑しくありませんか?」
アスカは違和感を覚え疑問を口にする。すると更に伝令の兵が駆け込み
「申し上げます! 越前のアサクラ軍、近江へと進軍を開始いたしました」
「なるほど。ご苦労様でした。下がって休んでください」
ユキナはアサクラ軍が動いたことで大よその動きを読む。
「ん? ユキナどういうことだい?」
「・・・良いですか?」
カエデの言葉にため息を一つついたユキナが扇子を片手に駒を動かす。
「我々アスカ軍本隊はここ武佐にてヨシナカ軍を迎撃となるでしょう」
「ん? 守山か石部辺りではダメなのかい?」
ユキナの指定した場所に疑問を持ったハルナが訊ねる。
「はい。その2つですと南のロッカク残党軍が動いた場合、守山であれば背後又はここ観音寺城が攻撃されることとなります。また石部であればヨシナカ軍が二手に分かれた場合同じように挟撃、更にはロッカク残党軍にも挟撃され守るのは困難かと」
「なるほど・・・理解した。続けてくれ」
「ですので武佐にてアスカ君の本隊で防衛に当たっていただきます」
「数が増えたとて主力は2,700が良いとこだろう? 持つのか?」
「そこは新たに加わった5,400とシャルロットさんの1,620で何とか持たせます」
新たに加わった5,400と言うのはアスカの支配領が2つ増えたことによるものである。またシャルロットの1,620も新たに軍団長に任命されたために得た数である。
「私はどういう配置になるんだ?」
「カエデは遊撃であり主攻としてヨシナカ軍を叩いていただきます」
「OK分かった」
ユキナはカエデに告げるとハルナへと向き直り
「ハルナさんにはここ清水山城へ援軍、アサクラ軍に対してはドウサン殿を含め美濃三人衆にハンベイ殿に任せようかと思います」
「ん? 狙われても居ない清水山城への援軍っておかしくないか?」
ハルナの言葉にユキナは頷き
「はい。普通であれば可笑しいのですが・・・ここ琵琶湖の北側のルートを使いヨシナカ軍・・・いえ、ヨシナカは脱出を図るかと」
「なるほど・・・木曽の戦力が残っていると考え再起を図ると言う意味でも木曽へ逃れる算段と言う訳だな?」
「恐らく・・・」
そい言いながらもユキナの顔に陰りが見える。
「ん? 他にも懸念事項があるのかい?」
「ええ、朝宮城へと逃れたアシカガ軍の動きが気になるんですけど・・・」
そう言いながらユキナはカリナを見るとカリナは首を左右に振り
「警戒がかなり厳しく情報は得られなかったよ」
「そうですか・・・では最悪アシカガ軍もヨシナカ軍に合流すると考えた方が良いかもしれませんね」
「この隙にアシカガ軍は京へ戻るとは考えられませんか?」
ユキナの言葉にアスカが口を挟む。
「確かにそれも考えられるのですが・・・ヨシナカ軍はアシカガ軍を京より退かせることは致しましたが、その後追撃しても居ませんし、属国となっていたロッカク軍もツツイ軍への攻撃は行ってもアシカガ軍への攻撃は行っていないのです」
「確かに疑わしいですね」
「そう言う事ですので皆さん警戒は忘れずにお長居いたします」
アスカを始め皆が頷く。
余談ではあるがカエデは近江の代官へと昇進し、ハルナは近江の軍団長であり小谷城の城主を兼任している。更にカリナには音羽城の城主、シズカには鎌刃城の城主としての地位が与えられているのである。またユキナは軍師の他諜報官も兼任していた。
小谷城
「アサクラ軍が動いたか・・・ハンベイどう見る?」
「はい。恐らくはヨシナカ軍との挟撃・・・狙うは清水山城ではないかと」
「うむ、それは十分に考えられるな」
「故に我々はこことここ長法寺と賤ヶ岳にてアサクラ軍を迎え撃つ必要が出てまいります」
地図を見てドウサンは顔を曇らせる。
「どちらか1カ所で有れば今いる戦力でも事足りるが・・・2カ所となると兵を分ける必要が出てくるか・・・」
「はい。かなり厳しいですが、長法寺にヨシミチ殿、モリナリ殿、ナオモト殿三人衆に布陣していただき、ドウサン様と私が賤ヶ岳に布陣する他ありますまい」
「本軍に援軍を頼むわけにはいかないのですか?」
ヨシミチが2人の会話に口を挟む。丁度その時一羽のハトが城の窓辺に止る。足に何か括りつけられたハトが・・・
「おお、本軍よりの知らせか」
モリナリがハトより手紙を外し内容を確認すると
「これは!? お喜びください! 本軍よりハルナ軍約2,200、カリナ軍600、シズカ軍600がこちらへと来るそうです」
「悪くない数字ですね。これでアサクラ軍を撃退することは可能となりました」
「布陣はどのようにいたす? カリナ殿はこちら賤ヶ岳、シズカ殿は長法寺、ハルナ殿は清水山城となるでしょう」
「なるほど戦闘が得意では無いシズカ殿を数が多い三人衆につけ、諜報に長けたカリナ殿の力を借りて十全にハンベイの力を発揮すると言う訳じゃな?」
「はっ! そうなります」
「良し! 皆の者出陣じゃ!」
「「「はっ!」」」
ドウサンの号令の下家臣たちは了承し頭を垂れた。
清水山城
「アサクラ軍が近江へと来るか・・・」
「若、ここは我らの忠義を示す絶好の機会」
「ヤヘイ分かっている・・・恐らくアサクラ軍とは戦にならんだろう。我らはヨシナカ軍に備え準備致す!」
「「「はっ!」」」
家臣たちがナガマサの号令で動き出す。ナガマサは空を見上げ
「ここを任されたのだ・・・皆の為にも負けるわけにはいかんな・・・」
近江へと侵攻したヨシナカ軍ではあったがそこにはヨシナカの姿は無く、本陣にはアシカガ軍の旗がなびき、ユキナの予測が正しかったことを示していた。
「ふんっ! ヨシナカめがこの将軍である我を顎で使いおってからに!」
鋭い目つきだが何処か品のある豪華な鎧に身を包んだ男アシカガ家当主ヨシテルの姿がそこにあった。
「・・・まぁ良い。それもこれもこの戦が終わればこの【亡霊武者】の軍と共に我が再び天下に号令を成す! 新参者など我の敵に非ず! 2軍を展開! 数にものを言わせ蹴散らしてくれるわ!」
草津にて別れたヨシナカ軍は武佐にて待ち構えているであろうアスカ軍向け二手に分かれ挟撃する形をとるのであった。
一方その頃ヨシナカとトモエ率いる2,000に満たない【亡霊武者】の軍は琵琶湖の北側にその大半を向かわせ、自らは山越えのルートをたどり朽木谷を越え若狭の国へと至ることを目指し動いていた。
「流石に山越えまで致すとはあやつらも考えまい」
「はい。ここでの戦力はほぼ失うでしょうが・・・」
「木曽に残して来た戦力で再起を図るしかあるまい。それに東海には他にも眠る者たちがおる」
「ええ、それらを用い再び京へと参りましょうお前様」
だが、アサクラ軍の主力が近江へと進軍したことで破竹の勢いとなった軍があった。毘の旗を靡かせ当主自らが先頭を掛ける越後から【亡霊武者】の軍を追撃したウエスギ軍である。
今まさにイベント前の今後を左右する決戦が近江を中心に行われようとしているのである。またヨシナカ軍が退いたことによりトヨトミ軍、【千成瓢箪】の用勢力は次なる戦いに備え暫しの休息をとることが出来るのだあった。
 




