003話
GWまで後2週間と迫った週末
足軽兵など現地人の大半を美濃に残し、アスカ達は鎌刃城へ向け進軍を開始した。道中小競り合いの様に【死鬼】の部隊との戦闘が起こる。だがタケダ領から【破邪】系の槍がカエデ率いる【ドール兵】騎馬隊に優先的に支給されたことで発見と同時に駆逐して行く。
そんなアスカ軍が鎌刃城へと訪れると大歓声を持って迎えられる。
「こういうのは悪くないな」
「領主であるヒサマサがヨシナカ軍に付いていなけれべな」
先頭を行くカエデに隣にいたハルナが歓声に答えながら小声で呟く。
「まぁそうなんだけどね・・・多分ここの者たちは知らないんじゃないかな?」
「だろうな。敵を騙すなら味方からとは言うが・・・」
「そのために足軽兵や美濃三人衆、ハンベイ殿にドウサン殿を美濃に残し後攻めとしているんだろ?」
「そうだな。駿河のイマガワ軍からタイゲン軍が援軍として来ていると言う訳だから問題ないだろう」
「それには我らがしっかりとこの先でヨシナカ軍を抑える必要があるんだがな・・・」
ハルナは出発前の軍議を思い出していた・・・
大垣城
「【十勇士】からの情報でアザイ軍・・・鎌刃城のナガマサ殿は味方なのですが・・・」
「領主のヒサマサはロッカクと共にヨシナカ軍に降伏していると言う事ですね」
ユキナの言葉にアスカが答える。
「はい。これから考えられることは我らアスカ軍が京へ向かうとその補給線と退路を断つために小谷城のアザイ軍本隊が南下するのは明白でありましょう」
「ならばどうするハンベイよ」
アスカの言葉をハンベイは肯定し、ハンベイの言葉に恥ずかしがるアスカを余所にドウサンが今後の動きをハンベイに聞く。
「そこで、主力であるカエデ殿を先方としてその補佐にハルナ殿をつけ観音寺城を責めて頂きます」
「その戦力で落とせるか?」
ハンベイの言葉にハルナが聞き返す。
「無論このままでは不可能でしょうが、敵も我らを引き入れる為に観音寺城前までは本格的な抵抗はなさらないでしょう」
「それだけじゃアザイ軍は動かないんじゃないのか? ユキナはどう思う?」
作戦を聞いていたカエデがユキナに意見を求める。
「ええ、これだけでは弱いですが、幸いなことにトウショウサイ殿から【破邪】系の槍がカエデの【ドール兵】騎馬隊の分は用意できましたので、今回はアザイ軍には先方カエデ軍、本隊アスカ軍、後攻めに私が率います部隊がと伝えます」
「なるほど・・・そこで東の情報を操作していたと言う訳ですね」
ユキナの言葉にアスカは納得したと言う風に呟く。
「情報操作って・・・あれか? まだ木曽の【亡霊武者】の軍の対応の為に美濃全軍を動かせないとかいうやつかい?」
シャルロットは自身の知る噂を思い浮かべ口にする。
「そうです。故に先ほど言った戦力が全てとアザイ軍に思わせるのです。これには【十勇士】の方々も協力してくれています」
「アザイ軍が動き出すのはアスカ軍が鎌刃城を出て、鎌刃城にユキナ軍が到着した段階で動き出すでしょう。そこで我々サイトウ軍が関ヶ原より小谷城を攻め、三人衆は関ヶ原よりアザイ軍の背後をつく形で挟み込むと言う策になります。また小谷城の【十勇士】もこれに康応して小谷城を内部から混乱させることになります」
「私が観音寺城を落としちゃってもいいんだろ?」
「確かに無理をすれば落とせないことは無いでしょうが・・・伊賀のロッカク軍も警戒する必要がありますから・・・」
「そこは私がカエデを抑えるさ」
「お任せいたします」
「ちょっ! 私だってそれは分かってるから」
慌てるカエデの姿にみんなの笑みが浮かぶ。
「まぁ最悪の場合は僕の【召喚術】を使います」
笑みが消えみんな真剣な表情となる。
「確かに最悪の場合はそうするしかないとしてもアスカ君のみに背負わせることは致しません。それに【黄龍】であれば被害はそこまでならないかと思います」
ハンベイの言葉にみんな頷き、その後も細かなすり合わせを長時間続けて行く・・・
小谷城
「本当に若様にお知らせしなくてよろしかったのですか?」
「構わん! 幾ら【破邪】系の武具をそろえようともあれほどの戦力差を覆せるわけがないのだ!」
部下の言葉に細身のヒサマサは声を荒げた。
「それにいざとなればナガマサとてこちらへと協力する。戦力としては十分美濃から来る軍を打倒できよう」
「確かにそうなのですが・・・あの蝮と今孔明と呼ばれるハンベイが何の策も用意しないとは限らないのではありませんか?」
「策を授かっていたとしてもあやつらは東の【亡霊武者】の軍への対応に追われているとの情報だ! 本人が用い無い策であれば経験に勝る我らが有利であるのは道理であろう!」
普段のヒサマサからは感じ取れないほどの強気な発言に部下の武将は口を噤んだ。
様々な思惑が交差する中、カエデ軍は北に琵琶湖を望みながら、その眼前に広がるヨシナカ軍を見据えていた。
「ユキナたちの予想道理の戦力だね」
「このまま突っ込むのでは芸が無いぞ?」
「分かってるって。例の物を撃ち込んでやりな!」
「ここであれを使うのかい?」
「全部使う訳じゃないさ!」
カエデはハルナにそう言って槍を掲げ振り下ろす。
その号令を合図に3つの樽が投石器によりヨシナカ軍を目掛け宙を舞う。それはヨシナカ軍の頭上で爆発し、中に入っていた者がヨシナカ軍に降りそそぐ。
「今だ! 突撃開始! 私に続け!」
「ヤレヤレ・・・しょうがないから付き合いますか」
カエデと【ドール兵】騎馬隊が駆け出し、その後をハルナ率いる【ドール兵】が追い駆ける。
突撃したカエデ軍は思ったよりも簡単に【亡霊武者】達を蹴散らす。その理由は明白である。降りそそいだのは【神聖水】、それにより多大なダメージを負っていた【亡霊武者】達にカエデ軍の突撃を止めるすべは最早なかったのであった。
その光景を琵琶湖の水面より観察していた武者が声を上げる。
「1700程度の軍で3倍近い【亡霊武者】を討ち取ったぞ!? 本当に我らはヒサマサ様に付き従ってよいのか?」
「ええ~い。サイは既に投げられているんだ。我らは我らの役割を果たせばよい」
小舟から煙が上がる。
小谷城物見櫓
筒を覗き込む兵士が琵琶湖の上に狼煙が上がるのを確認する。
「先方隊が突破した狼煙が上がった! 第一段階は越えたぞ!」
更に鎌刃城の方向を覗いていた兵士が声を上げる。
「アスカ軍本隊鎌刃城を出陣! 本体出陣であります!」
小谷城1階で報告を受けたヒサマサは立ち上がり
「戦支度を致せ! アザイが天下に名を轟かすときぞ!」
「「「はっ!」」」
部下の武将たちがそれぞれ矢継ぎ早に指示を出す。
空が赤く染まりだす頃、小谷城ではアザイ軍が今か今かと出陣の時を待っていた。
「鎌刃城より再び狼煙が上がりました! 後攻めの軍が入場した狼煙です!」
ヒサマサは立ち上がり軍配を掲げ振り下ろす。
「進軍開始! 敵はアスカ軍! 成り上がりもののアスカ軍! ここで討ち破れば美濃も我らの手に転がり込む! 進めぇぇぇぇ!!!」
アザイ軍の出撃を影より見守っていた【十勇士】のノブシゲは気にも垂れながら
「馬鹿な奴らだな・・・まっここで活躍すれば俺も城を貰える約束なんでね悪く思わないでくれよ? あんたらがヨシナカ軍になど協力するから行けないんだぜ?」
音もなくノブシゲの背後に黒ずくめの忍者が現れる。
「ほぼ戦力は残っていません。我々だけでも小谷城を落とせますが、いかがいたすでござる?」
「そいつは無理だな。城下にだって役職持ちの武将は要るんだ。ここは無理をするところじゃないよサスケ」
「御意」
ノブシゲは南の空を見上げ
「俺は一つ一つ段階を踏ませてもらうさ」
内政やら指示やらでまるで現実世界と同じように仕事に終れるアスカの姿を思い浮かべノブシゲは苦笑いを浮かべるのであった。