005話
【魔物】日本サーバーでは妖とも呼ばれているが、基本的にフィールドエリアに居る魔物は世界共通の動物型である。違いが現れるのはその地固有の遺跡などの場所に見られる。ヨーロッパ方面では大きな古い墓地にアンデットタイプの魔物が出たり、アメリカ方面では亜人と呼ばれる魔物であったりと様々であるが、魔物の種類で言ったらギリシャが【神話】を基に魔物が跋扈しているとか・・・
【ダンジョン】魔物などが徘徊する特殊フィールドエリア。【OWL】の世界では古い遺跡や険しい山、樹海、大きな湖などが有る。稀に古事記や神話を題材とした場所に存在したりもしている。
【通貨】基本は現実世界=VR世界となっているが、武器などは価格が抑えられVR世界の方が安めと言ったところだろう。
【犯罪】実名登録であるためVR世界での犯罪も刑罰対象であり、その地にある国の法が適用される。故にVR世界特有の【薬草】などが畑など所有地にある物を採取すれば窃盗罪が適用される。
「・・・とまぁ建物やなんかは木造で古いかもしれないが、ここも国の一部と思ってもらって構わないだろう。勿論我々の事も【現地人】・・・【人】として扱うに越したことはないね」
「貴方方にも感情が有るからですか?」
マサツグの説明を聞きアスカは自身が感じていたことを口にする。
「勿論それも有るが、君たち【時間旅行者】と違い我々はこの世界に生きている1つの生命体だと俺は思っている。それに管理者はいるが基本見守るだけだしね」
「つまり貴方方【現地人】がこの世界を動かしている。だから心証を悪くすれば物を売ってもらえなかったりするって事ですね」
アスカの言葉にマサツグは満面の笑みを浮かべ頷く。そんなマサツグの下に職員が1本の刀・・・小太刀であろう長さの刀を持ってやってきた。
「おっ丁度良いタイミングだね」
マサツグは職員から小太刀を受け取りアスカへと放り投げた。
「それが君の最初の武器となる」
「危ないじゃないですか。鞘から飛び出たらどうするんです」
マサツグは何処かバツの悪そうに指で頬をかく。
「まっまぁ良いじゃないか。抜いて確かめてみると言い」
アスカは少し拗ねたような態度で小太刀へと視線を落とす。そんなアスカもまた木立の事が気になっていたのである。即座に抜き放つ少し青味がかった色から
「青銅制ですか? 良く青銅で刀なんか・・・」
アスカは軽く小太刀を振ってみる。そして違和感を感じ小首を傾げた。なぜならば先ほどまで使っていた木刀と重さがさほど変わらなかったのだから・・・
「おっ気が付いたか。そいつは普通に作った青銅の小太刀じゃない。青銅に魔物由来の素材を混ぜることで重さを感じなくしてんのさ」
どうしてこのような処置がなされているかと言うとそれは簡単なことである。現代人が何十キロという重さの鎧など装備できるはずがない。いや出来る人もそれは居るだろうが現実的ではないとされこのような処置が施されているのである。
「素材や武器の種類によって相性ってのはあるが、概ね魔物の由来の素材を用いるのが一般的だ。新しくする場合はその辺を考慮に入れとけば失敗は無いだろうさ」
「ありがとうございました」
アスカはお礼を口にしギルドを後にする。
アスカはギルドを出るとすぐ近くにある台座に手を置き
「東門までお願いします」
お金の使い方は現実と同じような造りになっている為戸惑うことなく使える。すると駕籠を背負った2人の人物が駆けてくる。
「さっ乗ってくれ」
「お願いします」
アスカが駕籠に乗り込むと
「んじゃ東門まで行くぜ! しっかりと捕まって落ちない様にしてなっ!」
アスカは咄嗟に目の前の縄にしがみ付くとものすごい勢いで駆けだした。
「・・・うぷ・・・もう乗らない・・・」
アスカは気持ち悪そうな顔で東門の壁にもたれ呟いた。
まさか駕籠があれほど揺れるとは・・・その辺も気を使ってほしかった・・・
「なんでい嬢ちゃん駕籠を使ったくちかい? 駕籠にも種類があら~な」
人のよさそうな現地人のおちゃんがアスカへと声を掛ける。アスカは男であると反論する気力もなくおっちゃんの説明を聞く
駕籠の台座で目的地を口にする前に「揺れの少ない」「高級な」と言う言葉をつけると速度は通常の駕籠より落ちるがプラス100エンで揺れの少ない業者が来ると言う事と「車でお願いします」と言えば500エンで人力車が来るのだとか・・・
何で説明が無いのか・・・
困惑するアスカを見ておっちゃんは
「あっしらの間じゃ常識だし、嬢ちゃん見て~な【時間旅行者】見ってっと和むだろう?」
いや、和むって・・・面白いと言わないだけましなのか?
アスカは気分も戻りおっちゃんにお礼を言ってその場を後にし、初心者に丁度良いと教えてもらった東の森を目指した。
アスカは今森の木々を避けながら必死で逃げていた。何でこんなことになったのかと問われれば・・・森までの距離が半端じゃなくあったのだ。そしてついたのは空が赤く染まり始めた頃・・・夜になると活発になる魔物も居る為に夜の狩は推奨されていない。そして森では木々が日の光を遮り視界が悪いと来れば・・・
「どこが初心者に丁度良いだ!」
ファングドックが茂みから1匹アスカへ向け飛び掛かる。
「ああもうっ!」
暗闇で足場も確認できずに何とか躱し、そのまま走り抜ける。反撃しないのかと言われそうではあるが相手は1匹だけじゃなく群れなのだ。
アスカの身体は所々擦り傷などが無数にできている。必死の思いで駆け抜け森の切れ目を発見し転げるような形で森から飛び出す。
「ここなら!」
瞬時に周囲を確認して十分な広さが有り、石などの障害物になりそうなものが無いことを認識したアスカは小太刀を抜き放ち振り返る。
そこへ丁度良いタイミングで1匹のファングドックが襲い掛かった。
「さっきまでの僕と思うなよ」
アスカはファングドックの攻撃をひらりとかわしたかと思うとその場で回転し小太刀をファングドックの首へと振り下ろす。ファングドックは断末魔の叫びをする暇さえなく首が飛び、粒子となり掻き消える。すると次のファングドックが横から飛び出しアスカへと迫る。アスカは後方へとステップを踏むかのごとく回りながら距離を取り下段から切り上げる。アスカの斬撃はファングドックの顎へと吸い込まれるように軌跡を描き切り裂く。するとファングっドックは警戒したのかアスカを挟み込むように動きを見せ飛び掛かる。連携が取れていても個体差からだろうか僅かに勢いに差が出る。それを瞬時に判断しアスカはその場でまたヒラリと回りながらまず初めに後ろから襲い来るファングドックを切り捨て、その勢いそのまま・・・いやさらに勢いを上げくるりとその場で回り、もう一匹を切り捨てた。
すると実力差を理解したのかファングドックがアスカから遠ざかって行くのを感じ、それでも油断しないとばかりアスカは警戒してしばらくたった後
「ふ~もう大丈夫かな・・・」
一息つき初心者に丁度良くなんかないじゃないかなどと思っているのだが、それは昼間の事であり、更には森の浅い場所であるのだが、マサツグもアスカが夜に森へ行くなどとは思わず、更には奥へと足を踏み入れるなど考えようもなかったことであった。