011話
一方その頃信濃南部から三河へと進んでいた【亡霊武者】の軍はオダ、マツダイラ、【天下不武】のシバタ、カズミ率いる連合部隊により壊滅的打撃を与えていた。
しかし【亡霊武者】の軍はこれだけではなかったのだ。信濃南部から美濃へと別れた部隊が居た。その行く手を阻止するためにハンベイ率いるサイトウ軍が立ちはだかり激戦を繰り広げる。当初の予定ではハンベイ率いる部隊が足止めし、タツオキ率いる本隊が殲滅すると言う物であったのだが、タツオキは援軍など送らずに大垣城へ向け進軍していたのだ。
多大な犠牲を出しつつもハンベイの率いる部隊は辛くも撃退に成功する。そして今回の援軍要請無視について問いただそうとハンベイが稲葉山城へと来るとそこは巧妙に隠されていたが【死鬼】達が続々と現れる場所と化していた。
ハンベイは事の次第を大よそ掴み引き返すと籠城に足る兵力を残し精鋭を伴い尾張経由で大垣城を目指すのであった。
大垣城を目指し軍を進めていたタツオキは関ヶ原に近づくにつれ側近の将が体調を崩しだす。進まぬ行軍に苛立ちを覚え、その苛立ちを紛らわすために一緒に連れてきていたタマヅサの下を訪れる。
「タマヅサ! タマヅサ!」
断りも居れずにタマヅサの為に誂えられた天幕へと入ったタツオキは瞳を大きく見開き驚きを見せる。タマヅサが地に臥し苦しみのたうち回る姿が目に移ったからであるが、それだけではなかったのだ。9本の尾が蠢いていたのである。
「貴様! 儂をたばかっておったのか!」
タマヅサの胸倉を掴みタツオキは怒鳴りつける。
「はんっ! 汚い手で私に触るんじゃないよ!」
タマヅサは胸倉を掴むタツオキの手を握り、女性とは思えないほどの力でその腕を握りつぶす。
「ぐはっ! 儂を儂を騙しておったのか!!」
反対の手1つで器用に腰の脇差を抜きタマヅサへと斬りかかる。
「くっ! この嫌な気配・・・駿河の国の・・・ちぃっ!」
よろめきつつもタマヅサはタツオキの斬撃を片手で防ぎ黒い炎でタツオキを焼く。
「ぐぬぬぬぬ!! これしきの炎で!! ・・・なにっ!!」
炎を消そうとしたが消えず咄嗟にタツオキは鎧を脱ぎ捨て上着までも脱ぎ捨てる。タマヅサはその隙にその場から離れ、黒い炎は天幕へと燃え移り周囲へと燃え移って行く。
この炎によりタツオキは焼け死に、タツオキに従った武将たちも腹を大きな虫に食い破られ息絶えているのが発見される。アスカ達の知らぬ間に美濃の反乱は失敗に終わるのであった。
大垣城
ドウサンの下へとハンベイが訪れ反乱軍並びに【アシヤ】の【死鬼】に対する軍議が行われているところに慌てた伝令の兵が駆け込んだ。
「何事ですそんなに慌てて」
ハンベイはドウサンの許可を得て伝令の兵へと訊ねる。
「はぁ・・・はぁ・・・はっ! タツオキ様討ち死に! 討ち死ににございます!」
ドウサンとハンベイは顔を見合わせ、ドウサンが頷くとハンベイは再び伝令の兵へと向き直り
「状況を詳しく」
「はっ! タツオキ様は反乱の為稲葉山城の戦力の全てでここ大垣城を目指し行軍中でありました」
「それはこちらでも掴んでいます。続きを!」
「はい。大垣城の北、関ヶ原の東へと差し掛かった時に、タツオキ様に従う武将たちが体調を崩しだし行軍は止まり休息をとっているさなか、中央にあったタツオキ様の天幕より黒い炎が立ち上り周囲を焼き始めた次第にございます」
ハンベイは顎に手を添え考え
「恐らくタツオキはタマヅサの存在に気が付いたのでしょう・・・しかしどうやって気が付いたのでしょうか・・・関ヶ原・・・!? そうか! 【神楽舞の神子】が張ると言う神聖結界の影響がそこまで出たんでしょう」
ハンベイの言葉にドウサンも頷き
「そうであろう。しかし将が苦しみだしたと言うのは・・・」
「【葵】にやったように蠱毒であろう・・・ズズズ・・・」
シキノの言葉にドウサンとハンベイはシキノへと顔を向ける。
「毒虫が神聖結界の影響で身体の中で暴れまわったと言う事よ」
「なるほど・・・そうやって各地に瘴気を振りまくのがタマヅサの目的ですか・・・」
「だが、稲葉山城の戦力が使えんとなると・・・いや、ここにヨシナカ軍の目を向けさせておる間に稲葉山城を奪還し反撃に移れば・・・」
「確かに殿の策であれば可能でありましょうが・・・それには彼らがどれくらい被害を受けたかにもよるでしょうか?・・・いや、【神楽舞の神子】とその側近衆さえいれば落とすのは容易か」
そう言ってハンベイはドウサンへと顔を向ける。
「構わん! 抜け道を使い早々に落とすが良い。そして坊主にはそのままそこの主となってもらおうか」
ドウサンの口端が吊り上がりその瞳には鋭さが増す。
「なるほど・・・いや? 殿はそれで良いのですか?」
「構わん! 老兵はただ去るのみよ」
「いえ、しばらくは彼の後見人として頑張ってもらいます」
ドウサンとハンベイが睨み合う
「どうでも良いが早くせねばならんのじゃないのかのう?」
しばらく睨み合っていた2人にシキノが言い放つ。
「それでは私が直々に」
「うむ、任せた」
ハンベイが出ていくのを見送ったドウサンは月明かりに照らされた夜空を見上げた。
アスカ達は戦力差の違いから関ヶ原での迎撃を諦め大垣城を目指し退却の判断を下していた。そんな彼らの下へ6騎からなる騎馬隊が駆けてくる。
「そこで止まれ!」
先頭を行くカエデがその騎馬隊の前へと立ちふさがる。
「その旗印・・・【六文】の方とお見受けする」
「ああ、【六文】実働部隊隊長カエデだ」
「私はサイトウ軍軍師ハンベイと申します」
ハンベイと名乗った男にカエデの背後から歓声が上がる。
「すみません【神楽舞の神子】であるアスカ殿に至急協力していただきたい剣が有るのですが・・・」
「何か稲葉山城で動きがあったのですか?」
人垣を掻き分けアスカがハンベイの前へと歩み出る。ハンベイは騎馬から降り片膝を付き
「アスカ殿に置かれましては稲葉山城奪還作戦に参加していただきたく、このハンベイまかり越しました」
「つまり、少数精鋭で城下へと潜入し、アスカ君の【浄化】の力で一気に奪還してしまおうと言う事ですね?」
作戦を予測したユキナがそう言い放つ。
「ええ、見た所そちらもかなりの被害を出したかと・・・」
ハンベイはアスカ達の後方へと視線を向けると包帯を巻いた者たちの姿が見受けられる。
「分かりました。このままではヨシナカ軍と反乱軍との挟撃が起きると言う事ですね?」
ハンベイはアスカの言葉に感心し
「その通りでございます。案内は私どもが務めさせていただきます」
「結界の効力を上げるには私らも行った方が良いんだが?」
ハンベイにカリナが訊ねる。
「構いません。アスカ様のパーティーメンバーまでであれば見つからずに潜入することは過労ですから」
「ちっ! 私達は留守番か・・・」
「そうとも言えないわよカエデ」
愚痴をこぼすカエデにユキナが声を掛ける。
「どういうことだよ?」
「つまり、私達はアスカ君達が稲葉山城を奪還するまで大垣城でヨシナカ軍を足止めしなければいけないと言う事よ。あの大軍を相手にね?」
「そう言う事か!」
「そう、どっちも危ないことには変わりがないから・・・」
ユキナはアスカへと顔を向け
「あまり無茶はしないこと! 良いですね?」
「え~とそんなに信用無いかな?」
「有りません! 自分一人で抱え込む癖が貴方にはあるし、前科も有るようですからね?」
ユキナの言う前科とは多分中学時代のいじめ問題の事であろうとアスカは予測しその頬を指でかくのであった。




