007話
炎はそのままファングウルフを襲い、辺りに肉の焼ける匂いが漂う。周囲の炎が収まるとその中心でアスカは2振りの赤い刀身の刀を握り唖然としていた。
迷惑な能力ですね・・・使い心地はどうでしょう?
アスカが右手の刀を振るうゴウッ!太刀筋に従い炎が飛ぶ。
え!?
確かめるように左手の刀を振るうと右と同じように炎が飛ぶ。
このままじゃ皆と一緒に戦う言葉できませんね・・・どうにかできませんか?
アスカは富士の山道で学んだ様に刀身を魔力で覆い振るう。するとどうだろう先ほどまでと違い刀身自体は炎を纏っているがその炎が飛ぶことが無い。
なるほど魔力によりコントロールが可能ですか・・・っと!?
刀を振るい感触を確かめていると不意に刀が消える。アスカは咄嗟に視界端にある時計へと視線を移し
だいたい1分半と言ったところでしょうか? 他のも試してみましょう
アスカは他の皆が唖然としている中他の武器の感触を確かめて行く。
全ての武器の感触を確かめて分かったことは【黄龍の太刀】以外は皆すべて1分半程度の召喚時間で、【黄龍の太刀】はその半分位の時間と言う事が分かった。
また召喚時の周囲に与える肥大に付いても大よそ理解できた。
【黄龍の太刀】は天空より光が五本周囲に降りそそぎ、その光の柱がアスカへと回転しながら距離を詰め大きな光となり龍を形どりはじけたところで【黄龍の太刀】が現れる。
【朱雀の双刀】は先ほどの様に火の鳥がアスカへと舞い降り周囲へと炎を撒き散らし炎が収まると【朱雀の双刀】が現れる。
【青龍の薙刀】は背後に水龍が現れ、大量の水が津波のように押し寄せ前方へと流れ、津波が収まると【青龍の薙刀】が現れる。
【白虎の双爪】はアスカの傍らに白い虎が現れ、アスカを中心に竜巻が発生して竜巻が収まると【白虎の双爪】が現れる。
【玄武の六角棍】は右手で翳し手が覆った範囲が振動しひび割れ周囲へと地面を撒き散らし大きな亀が現れアスカへ向け口を開くと、そこより【玄武の六角棍】がアスカへ向け放たれる。
一通り確認の終わったアスカは皆の所へ戻る。
「中々使い辛い武器のようです」
「「「・・・」」」
反応が無かった為アスカは小首を傾げた。
「どうかなさいましたか?」
「どうかと言うか・・・」
「何アレと言うか・・・」
「言葉にならないですよ? 一体どんな【ジョブ】に付けばああなるのですか?」
ハルナ、カリナと続きようやくシズカが2人を代弁するかのように口を開き、それに2人が首を縦に振り同意する。
「どんなって、僕が選択できたのは【英雄】【勇者】【神子】【剣聖】で、戦闘職である【剣聖】をまず除外して、他の3つの詳細を確認して【神子】を選んだんですけど・・・アレ?言いませんでしたっけ?」
「言って無いな。それに【英雄】【勇者】は選ばなかったのか・・・」
アスカの言葉の中に【英雄】【勇者】があったことにハルナが反応した。
「何か不味かったんですか?」
「あっいやなに京へ行くのであれば【英雄】【勇者】の2つがキーとなるんじゃないのかと言う話が上がっていたものでな」
「でもアスカの事を考えればその2つを選んだら厄介なことになるぞ?」
「そうですね。【ジョブ】を理由にまた関東へ連れて行こうとする者や関東の時間旅行者と行動を共にする機会が増えそうですからね」
「まっ何にせよそんな奴らはあたしの剣で何とかしてやるさ」
他の3人と違い周囲に居た魔物を倒していたシャルロットがアスカ達の下へと戻り声を掛ける。
『数が多いと難しいと思いますよ?』
「そうなのか?」
『ええ、ハルナ殿がお使いになった【ドール兵】の様な物を他の方々がお使いになれば、今まで以上に対応に苦慮しなければならないでしょう』
「そうだな。【侍大将】に至っては1人で540の【ドール兵】を持つみたいだからな」
ハルナの言葉にミカエルが頷く。
「それではこちらも戦力を整えた方が良いですかね?」
「だったらシズネさんに相談する方が良いんじゃないかな? ちょっと連絡してみる」
シズカの意見にカリナが反応しみんなの返事を聞かないまま通信を行う。
しばらくすると会話を終えたカリナがみんなへと顔を向け
「今、こっちに向けてユキナさんとカエデさんがシキノ様の護衛をして向かっているからそれに合流するようにだってさ」
「なるほどそれは心強いな。【六文】実働部隊の主力との合流と言う訳だ」
ハルナの言葉にカリナは頷き
「それにその2人はアスカと顔見知りみたいだしね」
カリナはそう言いながらアスカを見る。するとアスカはその名前の人物に付いて考え込む。
ユキナさんとカエデさんですか・・・ん? もしかして彼女たちですか・・・暫くあっていませんでしたし、高校は同じだとお婆様から聞いてますね
「あの2人ですか。確かに知り合いですね」
「なら決まりだな。しばらくは美濃周辺でレベル上げをして待つと言う事だな」
ハルナの言葉にアスカ達は頷く。
一方その頃【瘴気満ちる城】
1階を攻略し2階へと足を踏み入れていた【天下不武】と【伊賀忍軍】の連合軍はその入り口で陣を敷き休憩を行っていた。
「ノブタカ殿、城に詳しいものに確認したところ地図は変わらないのだがその大きさが3倍ほどになっていると言う事だ」
「ダンジョンだから異空間となっていると言う事だな。だがこの図面が参考になるのであれば何とかなるか」
甲冑姿のノブタカと忍び装束に身を包んだマサナリの会話にヒデミが割り込む。
「その考え方は危険です。これがまだ出来たてでそうなのか、それとも先ほどの話の様に元となる物がただ大きくなったものなのか分かっていませんから」
「なるほど油断は禁物と言う事だな」
ノブタカの言葉にヒデミは頷く。
「だが、京で発生した【亡霊武者】の軍や関東で今だ交戦している【タイラ】の軍が気になるな」
「キヨモリ軍は西で拠点を築いているようです。また京へ入ったヨシナカ軍はその周辺を制圧するため動きを見せているとのトウキチ殿よりの情報です」
「確か関東の方は【アシヤ】が見受けられないと言う事で【陰陽連】は京へ戻り、その護衛として【六文】が付いてるって話だな」
「はい。マサナリ殿の言う通り京方面の【亡霊武者】は【アシヤ】が関わっていると見て間違いないでしょう。そして【タイラ】については常陸の国と言う守りやすい地を抑えられたことで攻めあぐねているのと、ウエスギ軍、タケダ軍共に領内で発生した【亡霊武者】の対応に戻ったとのことで、北からダテ軍、南からホウジョウ軍、サトミ軍が当たっている模様ですね」
「戦力が足りない・・・それゆえの【ドール兵】と言う事か」
「恐らくそうではないかと」
ノブタカの言葉をヒデミが肯定する。
「だが、それを育てるのにも時間がない・・・か」
京の都では【亡霊武者】による略奪が相次ぎ人々は時間旅行者の護衛の下近隣へと逃れる物が増え始めていた。
「くぅ~大阪から動く訳にもいかん。どないせいいうんや!」
背の低い猿顔の青年トウキチは不満を口にする。
「ここは我慢の時かと」
そんなトウキチに赤い甲冑姿の顔立ちの良い男ノブシゲが声を掛ける。
「せやかてこのままここにおってもしゃ~ないやろ?」
「上田からの知らせでは美濃の大垣城下に【神子】の一行が居るとか」
ノブシゲの言葉にトウキチは目を細める。
「なるほどそっちに戦力を回し京を奪還する言うんやな?」
「はっ! 我ら【十勇士】それにシキノ様を護衛している【六文】の主力が【神子】の下に集えば必ずや」
「あい分かった。軍資金を用意する。【ドール兵】の装備もそろえや」
「ありがとうございます。それでは直ちに」
ノブシゲはトウキチに頭を下げその場を後にした。




